自称天才の心情
あれから棗は桜木に会っていない。
本人は別に何ら問題ないのだが、桜木は棗にずっと嘘をついており、キレて暴れだしたところを見られてしまったことで気まずい思いをしている。
これを考慮して水戸たちに今は任せ、自分はのんびりなるように趣味をしながら待つことにした。
本日は放課後の西に傾く太陽に染まる人気のない所で木々を描いていた。
――そこは体育館に近い。
『……本当は後悔してるくせに』
スケッチブックに描かれた木々の近くに加えていく鉛筆。
それは次第に人をかたどり、特徴的な髪形が付け足される。
『出ておいでよ、桜木。
私は何も怒ってないから』
振り返ることなく手を動かし続け、砂を踏む音が聞こえるとこちらに近づいてくる足音。
無言の相手に棗は笑みを溢し、
『この一週間、ずっと端で基礎練習をしていたのは知ってたよ』
「……っ」
『わざわざ知らないふりをしていたのは、
桜木が理由はどうあれ1つのことをやり続けられるものに出会えたから、だから見守ることにした』
漸く掻き終えた棗は後ろで黙り込んでいる人物に向き直った。
『よく我慢したね。でもこれからが大事。
好きな女の子に悲しい顔をさせるのは男としてダメだぞ』
完成した絵には体育館の入り口に向かって堂々としている桜木が描かれていた。
「棗、俺……」
『この絵みたいに、やってみない?』
「……おうよ。やってやろうじゃねぇか」
『天才なんでしょ?天才に不可能はない!』
吹っ切った桜木は胸を張り、棗の頭を乱暴に撫でて体育館に向かった。
控えめな彼の姿を発見したマネージャーと副キャプテンの木暮は直ぐに中に引き摺り、
ドリブル以外のパス練習もやることになってバスケ部に戻ることになって一歩前進することが出来た。
『桜木花道、ここに復活……ってね』
棗は道具を片付け、喧嘩をしてきたのか傷が出来ている水戸たちのところに合流した。
自称天才の復活
(どうしたのその傷?)
(気にしなくていいぜ)
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