触らぬ神に、何とやら
本日は生憎の雨。
灰色の雲が空を埋め尽くし、雨は一向に止む気配がない。
3時間目を迎えても未だに降っているのだ、湿気がさぞかし多いだろうと心の中で頬杖をついて空を睨む。
昨日、監督の安西と顔合わせを済ませ、
1年生対2、3年生との練習試合で赤木と流川の戦いについていけなかった桜木。
試合中赤木の頭にダンクを決めてしまったら怒られて首を絞め上げられたと愚痴を溢す桜木に、
流石の棗も吹き出して大笑いして相槌を打った。
(今日は雨のせいで外に出られないし、練習でも見に行こうかな)
少しは上達したかな、と思うとふと思い出したように窓に向けていた視線を反対に移せば、
机に突っ伏して寝息を立てている流川を見て彼もバスケ部だったことを思い出す。
そう言えばまた寝てるな、流川。
チラリと前を見れば、数学の教師である小池が額に青筋を立てて今にも爆発してしまいそうな顔をしていた。
流石に何度も寝て入れば彼も我慢の限界だろうと察し、棗は心配そうな自分の隣の子に促されてとりあえず声を掛けてみる。
『流川、るーかわ』
声を掛けてみればビクリと肩が上がり、
ゆっくりと上げた顔にはまだ眠たいです、とありありと現れていた。
それから頭をガシガシ掻くとまた体勢を整えて机に伏した。
この人あれだよね、絶対部活する為だけに学校に来てるようなもんだよね。
呆れ果てていると、ついに堪忍袋の緒が切れた小池は流川に近寄って教科書を丸めて叩き始めた。
どの授業でもこの調子なのに、と他人事のように眺めていると……
「……」
『あ、マズい』
以前見たことのある流川の目を見て棗は第六感が警報を鳴らしたような気がした。
いや、これは気のせいではい。
あの目は……
「…何人たりとも俺の眠りを妨げる奴は許さん」
(やっぱりぃぃぃ!!)
席から立ち上がった流川は寝ぼけにより暴走を起こし、教室は騒然となった。
事態を収めようと誰もが考えるが、今の流川を止めるものは誰もいない。
「由利さん!
お願い、流川君を止めて!」
『え、触らぬ神に祟りなし!』
「お前しか懐いてねぇんだ、頼むって!」
『ちょ、懐くってどういうことよ』
暴走をいち早く予期した棗は逃げようと試みるが、周りの友人たちに捕まって最早生贄状態となってしまった。
だがこのままではどうしようもないことからついに腹を括る棗。
暴れる流川にタイミングを見計らって近寄り、端正なその顔を両手でぐわしと掴むと自分の方に向けた。
危ないという声やズルいという羨ましがる声が聞こえ、じゃあ替わってくれよ!と内心舌打ち。
間近に見える顔が何かを仕掛けてくる前に棗は口を開いた。
『おーい、るーかわ。
もう少し頑張ったらお昼だよー』
「……む」
『あ、起きた』
「……由利?」
棗の言葉を聞いた流川はじっとこちらを見続けると次第に正気に戻り、目が寝ぼけていないと分かるとパッと手を離して安堵する。
彼が起きている時間は主に(ほとんどだが)昼休みと放課後。
その言葉を聞かせてやれば起きるだろうと予想はしていたが、まさか本当にそうなるとは思っていなかった為に思わず苦笑が零れた。
何はともあれ流川の暴走は止まり、嵐は去った。
お供え物(生贄)決定
(これから先席替えしても、由利さんは流川君の隣の席でよろしくね!)
(じ、人権侵害!!)
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