02
『じゃあな』
そう言って教室を去っていった黒崎の目が、頭から離れない。
僕をなぶって悦しみ、その後は興味も無い様な、まるで何の感情も映していない目。
言外に、お前は玩具だ、と言われている様な気がした。
黒崎の退屈を紛らわす、ただの玩具だと。
黒崎が飽きれば、それでお終い。
僕という古い玩具は捨てられ、新しい玩具(ターゲット)が決まる。
今黒崎に従っている“仲間”も、明日にはどうなっているかわからない。
黒崎の気まぐれで、ターゲットにもなるし仲間にもなる。
全ては黒崎次第。
そんな仕組みが、このクラスにはあった。
……いや、この学校には、かもしれない。
親が有名な政治家で、問題ごとは全て父親がもみ消し、非を訴えれば家に潰される。
おまけに黒崎は性格も明るいし、身長も高いので皆の気を引いた。
華やかな自信に満ち溢れた雰囲気に、リーダーシップを取る雄姿。
そんな姿に、同級生達は魅せられていた。
僕も、それは一緒だった。
しかし、勉強も運動も完璧にこなす黒崎は、何でもできるが故に、ある悩みを抱えていた。
それは、『退屈』だということ。
いつからだろうか。彼が意地悪く笑う様になったのは。
僕の、憧れにも近い感情が、歪んだのは。
*
『守山っ、一緒に帰ろうぜ!』
そう言って僕に笑いかけてくれていた黒崎。
あれは、半年くらい前だったか。
まだ黒崎が、眩しい笑顔を僕に向けていた頃。
僕と黒崎は、友達だった。
休み時間には黒崎達のグループと過ごし、楽しく喋り。
帰りには一緒に帰り。
親友と呼べる立ち位置だったかもしれない。
実際、土日にはよく一緒に遊んでいたし。
『守山、遊ぼうぜ!』
そう言って笑う黒崎の笑った顔が好きだった。
なのに。
『張間ぁ、お前キモイんだよ』
黒崎は、その頃から“退屈しのぎ”を始めた。
最初は、黒崎のカリスマ性を妬み、疎んでいた張間というクラスの男子から。
正直、見ていられなかった。
先生が見ていても関係ない。先生も黒崎には逆らえないから。
殴る、蹴る、裸にする、給食にゴミを入れる。
何でもありだった。
放課後は、黒崎の“退屈しのぎ”の時間。
黒崎は机の上に座り、楽しそうに口角を上げる。
その周りでにやにやと劣悪に笑う“仲間”。
僕も、その内の1人だった。
黒崎にだけは嫌われないようにと、必死に黒崎の顔色を伺っていた。
友達だから、とかそんなのは関係ない。
現に、張間は表面上は黒崎の友達だった。
なのに、今こうして黒崎のターゲットになっている。
僕も、いつ黒崎の玩具になるかわからなかった。
いつからか、黒崎に向ける感情が、憧れや好意から、恐怖に変わっていった。
『守山は俺の親友だから、いじめたりするわけないだろ?』
そう言って笑った黒崎。
その言葉に、心の底から安心したのを覚えている。
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