03 僕は、その言葉を信じていた。 黒崎と僕は、友達だから、親友だから。だから、決して“退屈しのぎ”の対象にはならないと。 そう、信じていたのに。 ある日、黒崎が新しいターゲットに、当時仲の良かった僕の親友を選んだ。 僕はその友達を助けたくて、黒崎達にバレないよう、こっそりと助けていたんだけど。 そんなことがいつまでも続く訳がなく、一週間も経てば黒崎にバレた。 あの時の黒崎の顔は、多分一生忘れない。 まるで信じられないものを見るように、目を見開いていた。 その顔が次の瞬間には歪んで、そして笑った。 『……ふぅーん。守山、俺達のこと、裏切ってたんだ』 『……っ』 しまったと思った。 まずい。何か言わないと。 『守山、明日からお前、』 黒崎が、冷めたような目で見つめてくる。 長い睫毛に縁取られた、綺麗な目。 僕は、その冷たい目に思わず息を呑んだ。 『新しいターゲットな』 ああ、とぼんやりと思った。 明日から僕の学校生活は、地獄になるのだと、痺れた頭で悟った。 * そして、僕は今日まで酷い虐めを受けてきた。 逆らえば更に地獄のような日々が。逃げればどこまでも。 普通、ターゲットの周期は1ヶ月ほどで変わるのだが、僕の場合は違った。 もう、虐めを受けて半年になる。 しかも、今までにないくらい劣悪で卑劣な仕打ち。 最早、黒崎に対する好意や憧れは、微塵も残っていなかった。 変わりに、ぽっかりと空いた穴を塞ぐのは、嫌悪と憎悪。 黒崎と仲の良かった時が、もう大昔のことのように思える。 あんなにキラキラとしていた黒崎の笑顔が、今は悪魔の笑みにしか見えない。 怖かった。憎かった。 何度、殺してやろうと思ったか。 何度、死のうと思ったか。 僕は、きっと黒崎を許せないだろう。 今も。この先も、ずっと。 僕は、床にうずくまったまま、静かに涙を流した。 悔しい。 痛い。 ぎゅっと拳を握りしめる。 力が入りすぎて、爪が皮膚を突き破った。 滲む赤い血。 鉄のような、ツンとした血の匂い。 僕は、黒崎に放られたメガネを拾い、涙を拭った。 ヒビが入っているんじゃないかと思ったけれど、幸い傷は付いていなかった。 口端に滲む血をどう誤魔化そうか、僕は言い訳を考えながら、ランドセルを背負う。 帰路につく間も、黒崎の顔が頭の中にちらついた。 僕は、朱く染まる夕焼けを眺めながら、暗い光を眼に湛えていた。 (いつか……) ──アイツに、復讐してやる。 そう、静かに決意して。 ─憎しみを知る end─ [*前へ] [戻る] |