6 * 「はぁー……、だりぃ」 放課後。 彰は誰もいなくなった教室を箒で掃きながら呟いた。最近、溜め息ばかり吐いている気がする。 「……」 吉田は彰の予想通りに、特に何を喋るでもなく、黙々と作業をしている。 「早く終わらせて帰ろうぜ」 「……」 無言の吉田。彰の投げかけは、ただの独り言に終わってしまった。 彰は、何だか無性に新橋や斉藤が恋しくなった。 (コミュニケーションが取れない……) 気まずい。 彰は、何故こんな目に、と途方に暮れる。 窓の外から校庭を見下ろしてみると、陸上部やサッカー部が練習に励んでいた。 下校する生徒はもうほとんどいなく、残っているのは部活がある生徒達だけ。 (新橋、あいつまだ待ってんのかな……?) 彰は、不意に友人を思い出す。 彰は中学の時からずっと新橋と一緒に帰っていたのだが、果たして新橋は自分のことを待っているだろうか。 (あいつ、待ってるって言ってたけど……) 元々新橋は自由気ままな性格だし、せっかちなところもある。 それだけに、彰は新橋が待ってくれているのだろうかと、不安になった。 (多分、もう帰ってんな) 自分の中で結論を出し、彰は再び箒を動かす。 と、不意に視線を感じて彰は振り返った。 しかし、そこには吉田が淡々と作業している姿があるだけで、彰は首を傾げる。 「?」 (今、確かに視線を感じたような……気のせいか?) 不思議に思い首を傾げながらも、彰は特に気にすることもなく、再び掃除に専念した。 「──そういえば、この間ぶつかってごめんな」 彰は不意に入学式のことを思い出し、ぽつりと呟く。 すると、吉田は作業する手を止めた。 それが、彰の話を聞いていることを知らせることに思えて、彰は言葉を続ける。 「ほら、入学式ん時の。吉田のこと倒しちゃったじゃん?」 その時のことを思い出し、思わず苦笑した。 「しかもあの時けっこう注目浴びちゃったしさ。ほんとゴメン」 あの時を思い出したら、顔から火が出そうだ。 何だってあんなドジをしてしまったのかと、自分を叱責せずにはいられない。 しかも、吉田が無言だ。 さっきからずっと黙っている。 これは怒っているのか許してくれないのか。 どちらにせよ、良くは思われていないに違いない。 彰は、今更自分の発言を後悔し始めた。 (まずい。むしかえすんじゃなかったか) 失敗したと思い、気まずい思いで吉田を見る。 吉田はこっちを向いているが、彰のことを見ているのかよく判らなかった。 何しろ、丸いビン底眼鏡が吉田の目元を隠しているもので。 [*back][next#] [戻る] |