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「えー、一応初めましてと言っておく。本日付けでお前らの担任になった神楽坂 祐也(かぐらざか ゆうや)だ。
 担当科目は数学。まぁ受験も無いんで気楽に過ごしてても大丈夫だと思います」


 担任のやる気の無さそうな自己紹介に、クラスの男子達が「神楽坂テキトー過ぎっ」と笑う。

 それに神楽坂はうっとおしそうに「うっせえ。お前らトイレ掃除にすっかんな」と気怠げに告げた。

 更に悲鳴が上がった男子達を放っておいて、改めてクラスを見渡す。


「まぁ、卒業までこのクラスな訳だから、仲良くしましょう。
 トラブルなんか起こさないように。絶対にトラブルなんか起こさないように」


(二回言った……)


 彰は思わず苦笑いし、それがこの先生なんだよなぁと思った。


 神楽坂はまだ二十代という若さに加えて、程よいユーモアと脱力したスタンスが生徒達にウケている。

 おまけにルックスも良いので、憧れの対象にもなりやすい。

 きちんとするべきことはけじめをつけ、しっかりと指導してくれるし、意外に面倒見もいいので、彰も神楽坂のことは好きだった。


(楽しくなりそうだな)


 彰は内心ほくほくと笑みを浮かべ、これから先のことを考えわくわくした。









 新しいクラスにはすぐに慣れた。  

 元々彰は社交的で人懐こいタイプであり、グループの中に入っていくのは別に難しくない。

 始めはぎこちなかったクラスメート達も、だんだんとお互いに慣れ始め、僅か3日ほどで大分馴染んだ。

 それなりに楽しい学校生活を送り、特に何の問題もない。



 ──ここまでは、良かった。



 しかし、数日後のホームルーム、係決めが、彰の運命の分岐点だった。



 この時の彰は、それを知る由もない。






 2.




「──川、相川……」


 誰かが彰を呼んでいる。彰はぽかぽかと暖かい春の日差しの中、心地良く寝入っていた。


「……相川、相川?」

「んー……」


 むにゃむにゃと返事なのかよくわからない言葉を発している彰は、完全に熟睡している。


「……いい加減起きろ相川ぁっ!」

「ぅえっ!?」


 突然大声で怒鳴られた彰は、反射的にびくりと顔を上げた。

 無理やり覚醒させられた意識ははっきりとしていない。


「?、!?」

「相川ぁ、テメ、新学期早々おねむとは良い度胸じゃねえか。もう一回眠るか?」


 教卓の前で拳をバキバキと鳴らしているのは、物凄い形相をしている神楽坂。周りで笑っているクラスメート達。


(うわ……、俺、いつの間に寝て)


「つうか吉田も。ホームルーム中にくらい漫画閉じろ。俺もその漫画は好きだが。特に主人公の妹がいいよな」


(おい神楽坂ぁぁぁあ!!)


 彰は心の中でツッコミを入れ、吉田の方を振り返り見る。

 案の定、吉田は机の上に堂々と漫画を広げ、相変わらず表情が見えないほどもっさりとしていた。


(うわぁ……)


 何度見ても見慣れないインパクトに、彰は若干引く。

 神楽坂はふぅと一息つくと、さらりと言った。


「と、いうことで、相川と吉田。お前ら、明日から放課後の教室掃除な」

「は!?」


 思わず頓狂な声を上げると、神楽坂は当然の様に言う。


「いや、居眠りしてた罰だから。吉田は、漫画」

「えー!」

「えー、じゃない。安心しろ。一ヶ月間だけだから」


 全然安心できない。

 最高にめんどくさそうな顔をしている彰を無視し、神楽坂はわざとらしく爽やかに笑う。


「はい、ということで決定。相川と吉田、よろしくな」


(Sだ……)


 心の中で神楽坂を呪い、ちらりと吉田の方に目を向けてみる。

 相変わらず何を考えているかわからない。


 彰は、はぁと溜め息を吐いた。








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あきゅろす。
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