カメラを持って、公園に向かった。
こないだ、かなちゃんに逢った公園。なんだか今日も会える気がしたから。
この曲がり角を曲がれば公園の入り口が見える。
そろそろ紫陽花の一番綺麗な時期が終わる頃だから、最後に何枚か撮って帰ろう。淡く青い紫陽花を。
曲がり角をまがった。公園の入り口には……かな、ちゃんと――その男の人は、誰?
あああ、もしかして鎌田くんが言ってた“アイツ”って、あの人の事? 見た目から言って年上、雰囲気からいって高校生ではないと思う。背も大きいし。……かなちゃんが笑ってる。ふわふわと、楽しそうに“アイツ”に向かって。
――胸がイタイ。心臓が握りしめられているみたいに苦しい。頭がクラクラする。
唖然と立ちすくみながら二人を見つめていたら、ふと男の人の手が伸びて、
「「あぁーー!」」
香奈ちゃんの頭を優しく撫でた。
あ、やばい。つい叫んじゃった。ってゆーか、声が誰かと被った気がしたんだけど。なんてのはどうでもよくて、
「霧島くん?」
ああほら、かなちゃんに気づかれた。どうしよう、覗き見してたとか、急に叫んじゃったし、罪悪感とか焦りとか――ああもう、どうしよう。
「今日は部活?」
「え、うわぁっ! か、かなちゃん」
頭の中がぐるんぐるんに歪んでいるうちに、目の前までかなちゃんが来ていた。僕を見つめるかなちゃんの瞳は、嫌悪なんて言葉を知らないぐらいに澄んでいて、お世辞にも綺麗とはいえない気持ちでいっぱいだった僕は恥ずかしくなった。
「またこの公園で会ったね。霧島くんもよく来るの?」
「う、うん。ここは紫陽花が綺麗だから、この時期はよく来る、かな。」
「ほうほう。そっかあ、じゃあ今まで会わなかったのが不思議だったんだね」
にこにこと楽しそうに笑う香奈ちゃんは可愛い。でも、今ここに香奈ちゃんがいるって事は“アイツ”が一人なんじゃ……。
「香奈ちゃん、あのっ……さっき一緒にいた人は?」
「ああ、真那斗くん? 従兄なんだあ。」
「従兄弟?」
「うん、お兄ちゃんみたいな感じかなぁ」
「そ、うなんだ……。香奈ちゃん、こっちに居て平気なの? その、従兄弟さんが一人なんじゃ……」
「ん? 大丈夫だよ。ほら、真那斗くんもお友達が来たみたいだから」
香奈ちゃんに促されて香奈ちゃんの後ろを覗くと、“真那斗くん”は何故か男の人に抱きつかれていた。腕が首に巻き付いてて苦しそう。“真那斗くん”も剥がそうとしてるし。
「え、え? なにかあったの?」
「そうなの。もうね、ドロンドロンなの」
香奈ちゃんの瞳が、キラキラし始めた。楽しそう、可愛いなぁ……。
「今、真那斗くんに抱きついてるのは志寿留くんっていうらしいんだけどね。昔真那斗くんが志寿留くんの彼女を――真那斗くんは彼女って知らなかったんだけどね――略奪しちゃって、結局真那斗くんはその女の子を振ったんだけど。志寿留くんは納得できなかったの」
「かなちゃん?」
あれ? 前にもこんな感じの会話をしたような……。
「そこで志寿留くんは復讐を考えるの。」
「ふ、復讐?」
「そう。志寿留くんは真那斗くんを好きだとアピールしまくって、真那斗くんが自分に恋するのを待ってるの」
「え、ええっ? だって二人とも男……」
「さすが霧島くん! 目の付け所が完璧っ! 志寿留くん――男に恋をしてしまった真那斗くんは凄く悩むの。でも最終的には志寿留くんを取る。でも、志寿留くんは真那斗くんの事が好きな訳じゃなくて、復讐――あくまで演技なの、すっかり真那斗くんが志寿留くんに依存した瞬間に志寿留くんは真那斗くんを一刀両断! グッサリと切り捨てるの!――あ、本当に刺しちゃうのもありかな――うん、本当は憎かったんだ、ってカミングアウトして包丁かなにかで刺しちゃうの!」
「もしかして、これも昼ドラ……」
「うんっ! 今考えたんだぁ」
「へ、へぇ〜」
ああ、かなちゃんが凄く生き生きしてる。普段ののんびりしてる所も好きだけど、こうやって瞳を輝かせている所はもっと好き。可愛いと思う。
とりあえず、彼氏とかじゃなくてよかったです。
(あの痛みは…………ヤキモチ、だったのかな)