夕焼け色と珈琲。


「あ、あのっ――」

 放課後、ありったけの勇気を振り絞ってかなちゃんを遊園地に誘った。
香奈ちゃんは意外にも――香奈ちゃんなら意外じゃないかもしれないけど――あっさりOKしてくれた。


「霧島くん、最初は何に乗りたい?」

「え、あっ……何がいいかな? コーヒーカップ、とか?」

 一昨日までの雨が嘘のように青空が広がる土曜日の朝。コーヒーカップとかならぐるぐる回しすぎなければ格好悪い姿は見せなくてもいい……はず。

「おーけーおーけー。さあ霧島くん、いざコーヒーカップへっ」
「えっ、あ。香奈ちゃん? て、て手がっ」

 これならはぐれないよー、って香奈ちゃんは僕の手を握った。絶対に顔が赤い。

「霧島くん、乗ろう?」

香奈ちゃんに手を引かれ、気がついたらもうコーヒーカップは目の前だった。

 音楽と共にゆっくりと回り始めるコーヒーカップ。香奈ちゃんも楽しそうにニコニコしてる。ニコニコしながら、

「コーヒーカップって、これ回すのが楽しいよね」

楽しそうにハンドルを回し始めた。……ってええぇっ!?

 景気よく回るコーヒーカップ。ぐるぐるグルグル回る回る回る。遠心力をモロに感じる絶賛片思い中十五歳の梅雨。あああ、目の前がチカチカしてクラクラする。目が回りそう、というより回ってる。でも、香奈ちゃんが楽しそうだから、いっか。


***

「楽しかったぁ! あー、もうこんな時間だ……。じゃあ最後はお決まりのアレ、行こ?」

 香奈ちゃんは、絶叫系乗り物が好きみたいで、お昼ご飯の時間を抜いて――全然食欲が湧かなかったけど、なんとかお腹に押し込んだ――絶叫マシンに乗りまくった。遊園地内の絶叫マシンは全部制覇したんじゃないかな。瞳をキラキラさせて絶叫マシンを探す香奈ちゃんが可愛かったから、酔いすぎて頭がクラクラするとかは気にしない事にした。

「か、かな……ちゃん?」

 ええと、遊園地で最後に乗る定番と言えば観覧車……だよね? 朱色に染まる空を二人で見つめて、綺麗だね、なんてのが定番だと思ってたのはもしかして僕だけ? 世間一般のデート(?)では、遊園地のシメに、綺麗に染まる夕焼けを見ずに

お化け屋敷へ入るのが普通なの!?


 薄暗く色づく夕焼け時、そんな時間にお化け屋敷に入るのは凄い嫌だけど、ウキウキと僕の手を引く香奈ちゃんにそんな事が言えるわけもなく、現在既にお化け屋敷の中。

「ひっひぃいいい〜」
「わっ、霧島くん見て見て! こんにゃくが吊してあるよっ! 古風だなぁ」

 冷や汗ダラダラ、へっぴり腰の上に半ば彼女に引き吊られて進む姿はまさにカッコ悪い男の象徴のよう、だなんて僕にもわかってるよ! もうやだ。かなちゃんは古風とか言ってたけど、生まれて初めて入るお化け屋敷なもんだから、僕にとっては全部が初めて、何が来るかわからないから余計怖い! だいたいホラーは苦手なんだってば。
「霧島くん、此処が出口だよ」
「や、やっとついた……」
「さあさあ、開けてごらんあさーせ?」
「な、何語? ――――わ、ぁ……」

 かなちゃんに促されて開けた扉の先には、空いっぱいに広がる満天の星でした。

綺麗な星空に、涙を流したくなりました。

(やっぱりお化け屋敷は怖いけど)
09.08.17


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あきゅろす。
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