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隠し神語り
四番目
まっ暗い山道を上り始めた綱吉とクローム。
視界は黒ばかりで、唯一手に持った懐中電灯が違う色を見せてくれた。
クロームは相変わらず綱吉の腕を抱いて三叉槍を握り締めている。
綱吉はヘタれなりにクロームから顔を反らして静かに歩いていた。
だって。



むにゅ。



恥ずかしいのもあるのだが、これは一般男子である綱吉にはかなりきつかった。
彼女自身中学生にも関わらず発育が宜しいので、当たる胸に綱吉は激しく理性をかき乱していた。
正直、かなりおいしいポジションだ、と自分で綱吉は宣言できた…―――勿論、心中で。



バサバサバサっ!



「ひぃいい〜!ごめんなさいぃいい!」

飛び立っただけの鳥に綱吉は悲鳴を上げて謝った。やましいことを考えていた罰だと根っからの正直者は考えた。
当然、クロームは何故謝っているのか訳が分からず首を傾げる。

「ボス…?」
「うわぁああ?!何でも無いよ?!何でもないからぁ?!」
「え?…───あ、はい。分かりました…」

耳に手を当ててクロームは首を傾げると綱吉を見上げた。
今の返事に対して完璧にスリーされたようだ。良かったような淋しいような感覚に綱吉は捕われた。

「ボス…骸様が少し話をしたいって───」
「わっ!わかった!何?!」

取り敢えず、今の綱吉にそれはかなりの助っ人である。
ただでさえ跳ね上がる心臓とムラムラする想いを止めてくれる気がした。
声を荒げて了承すると、今までクロームが纏っていた雰囲気とは別のものが漂い始める。



そして、ぶつりと消えた。



あれ…───?

綱吉は首を小さく傾げてクロームを見た。
いつもならば骸独特の雰囲気を纏ってやってくる筈なのに、それがたった今ぶっつり切れたのだ。
どうしたのだろうと思いながら綱吉は抱きつかれている方の手で、もう片方をさすった。
一層暗闇の増した森が急に冷え込んで肌寒く感じてきた。多分、クロームは下が寒いだろう…───と考えて顔を赤くした。

何考えてんだよ、オレぇ?!
ただの変態じゃないかぁああっ!



───め…───。



「え?」

綱吉が呟いて顔を上げた。
遠くから、女の人の声がした気がしたのだ。
酷く、悲しそうな声音だった気がする。
首を傾げていると、クロームが何の前触れもなく腕を放した。



「…クローム?」



綱吉が呼び掛けるが、クロームはぼーっと前を向いたまま山道を無言で歩き始めた。

「クローム?───おい、クロームってばぁ?!」

綱吉はクロームを呼びながらその横を歩く。しかし、綱吉の存在を無視するかのように歩調が緩むことは無かった。

「あのさ、寒くない?何か、急に冷え込んできたっていうか…その───」
「平気」

一言で片付けられて、そう、と綱吉は苦笑いを浮かべた。
しかし、クロームの言葉がいつもより淡々としているような気がする。
綱吉が覗きこもうと腰を少し屈めた途端、クロームは方向転換してわきの草むらに足を踏み出した。
その様子に焦った綱吉は、慌ててクロームの後を追う。

「何やってるんだよクローム!」

歩調は緩む事無く草むらを突き進もうとするクロームに綱吉は手を伸ばした。

「何?」

ピタリと立ち止まって、クロームはこちらを向いた。



「え…───」



肌が冷えた気がした。
いや、体の中から冷え込んだ。
さぁ、と体の熱が奪い取られるのを感じる。
氷が背中を舐めた。
腕が、足が、身体全体が、クロームを見て泡だった。

「く、クローム…?」

心臓が早鐘を打始める。
寒さとは別のもので体が震え始めた。
意味もなく体から汗が吹き出てきて更に体を冷やしていく。

クロームが身体もこちらに向けると、また笑った。



濁った瞳で、

口端が吊り上がっている。



こんな風に笑うクロームなど、見たことが無かった。

「クローム?……何処に行くんだよ…?リボーンは、消しゴム山道に置いたって言ってたじゃ───」



「知らない」



ぞくりと、肌が冷える。
心臓が目の前に居るクロームに対して鼓動を加速させた。
まわりの音が消える。
自分の耳が、心音とクロームの声しか受け付けない。



「私、この先に用があるの。 行くなら、一人で行って」
「クローム?…でも、コレ肝試しだから───」



「知らない」


クロームははっきり言い放ってまた、綱吉に笑いかけた。

「私、この先に行かなきゃいけないの」

異質な笑みを浮かべ、クロームは何もない草むらの奥に指を差した。

暗闇の続く、森の奥を。



「クローム…その先って───」
「祠がある。みんな待ってるんだ───」



頭が、逃げろと警鐘を鳴らす。
目の前のクロームが、だんだん歪んで見えてくる。
居るはずの彼女が、居ない気がした。

「久し振りの───仲間なの…」
「クロー、ム…?」



煩いほど心臓がなり響いて、体を硬直させた。
自分が呼んでいる相手は…───本当にクローム?



「私、行かなきゃぁ───みんな待ってるのぉ…」



にたりと口がひん曲がる。

焦点の合わさっていない片目が、ギラギラと煌めいた。



「私ぃ…─────行かなきゃぁ─────」



しわ枯れた醜い声を発して、クロームの皮を被った何かが嗤うように大きく口を開いた。





けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ

高らかに狂う哄笑が響いた。

けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけら「やめてくれクローム!や
めてぇえええっ!!」けらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけら「クロ
ームっ!クロームぅっ!!」けらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
「クローム!クロームっ!クロー
ムっ!!」けらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけら綱吉が、クローム
に向かって腕を伸ばした。けらけ
らけらけらけらけらけらけらけら
けらけらけらけらけらけらけらけ
らけらけらけらけらけらけらけら



「クロームっ!」



綱吉がクロームの腕を掴んだ途端に、哄笑が止んだ。

綱吉は目を見開いて荒い呼吸を繰り返す。
今更ながら、自分がどれだけ汗をかいていたのかを知った。夜風に吹かれて、体が寒い。



夏なのに。



「ボ、ス…?」

いつもの、高くて柔らかい声がクロームの口から聞こえてきた。

いつもの彼女が、そこに居た。

気が動転したように視線があっちこっちに行っているクロームの腕を引っ張って、綱吉は草むらを出た。

「ボス…ボスっ!」
「良かったっ…!」

綱吉は自分の事を呼んでくれたクロームを、何の考えもなしに抱き寄せた。
小柄な綱吉でも彼女は中に入り込む。
彼女の存在を感じ取ると、しっかり綱吉はしっかり視線を絡めた。

「クローム!森から出るよ!」

綱吉はクロームの返答を聞かずして腕をがっちり掴むと、一歩踏み出してずっこけた。
変な形をした石に躓いたが、綱吉は直ぐ様立ち上がって逃げるように走りだした。
痛いほど握られているが、クロームは何も出来ずにただただ走る。
自分を引っ張ってくれる綱吉の後ろ姿を見つめて連れられていった。



歯を食い縛って、自分の情けなさを噛み締める。
変な感じがしたあの瞬間から、クロームの手を取って逃げれば良かったのだ。
判断力の鈍い自分が、腹立たしくて仕方ない。



そんな思いが自分の頭を埋めていた。



綱吉が今も尚握り締ているクロームの細い腕は、死んだようにとても冷たかった。

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