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呪いモノ語り
変な人
 場所は変わって男子はサボりたい放題のオアシス、保健室。
 シャマルは不在である。
 獄寺と山本が並び、その向かいに喜々としている斑が丸椅子に座っていて、その三人に挟まれるように、綱吉はベッドを占領することになった。勿論、それは獄寺の配慮だ。
 パステルグリーンのカーテンで空間が出来あがり、薄暗い室内が一層、暗さを増す。
 会って間もない人間と同じ空間にいるという奇妙な図が完成していた。
 そうして綱吉はベッドに膝を抱えながら、震えていた。今すぐにでも逃げ出したい衝動にかられているのを抑えている状態である。
 その原因はというと、玄関で立ち話をした時まで遡る。


∞∞∞


「それ。内容は『東京の』花いちもんめだったな」
「は?」

 首を傾げた獄寺に、漸く九斑(いちじくまだら)と名乗ってくれた先輩は続けた。

「花いちもんめは都道府県やその県の中にある地方ごとに歌が違う。それに書かれてるのは東京で遊ばれる歌詞だった。あれって、布団が破けてるのが『ビリビリ』って表現したり、『お釜被って来ておくれ』のところが『銃を持ってきてくれ』と頼み方が違うのだ」
「く、詳しいんですね…」

 彼の無表情さからは察しにくいが恐らく楽しんでいるのだろう。突然、饒舌になった。そう推察して、一応笑みだけは浮かべておく。
 まぁ、と答えた斑はこう続けた。


「『怪談話』に関連するからな」


 ぞわり、と身体が震えた。その身の毛立つ言葉に、綱吉は斑から目が逸らせなくなった。
 彼は無表情で続ける。

「花を一匁買う際に値段をまけて悲しい売り手と、安く買って嬉しい買い手の様子を歌っている童歌だっていうが、『裏側』はまた別だ」
「裏側…」

 呟いた綱吉に、初めて斑の表情が『にぃ』っと動いた。

「『人買い』の歌だよ」

 うすら寒さを覚えるその笑みに綱吉はごくりと息を呑んだ。

「人…買い…――」
「そうだ。娘を人買いに売り、その『値段をまけて』悔しい親と、『買って』嬉しい人買いの話さ…」

 滑稽だろう、と小さく笑う斑。

「他にも一匁が『心臓の重さ』って話もある。いやいや、童謡も童歌も裏側は面白いよなぁ」

 そして斑は綱吉を値踏みするように頭から爪先まで見ると「よしよし」といきなり綱吉の腕を掴んだ。

「え?! 何ですか?!」

 ぐいぐいと引っ張る力は強い。しかも、進行方向は明らかに教室へ向かっていない。
 その後ろを慌てて獄寺と山本が追いかけてくる。ついでに、先程からこちらに視線をくれていた生徒達の顔が青ざめた。

「どうせなら雰囲気の出る所で話そう。君は楽しそうだ」
「楽しそうって?! っていうか、どこへ?!」
「保健室」
「へ?」

 確かに、あそこはサボりたい放題の憩いの場だが、雰囲気の出る所だろうか。
 たぶん、雰囲気とは「恐ろしい雰囲気」のことを指していると思うのだが、出るというならやっぱり理科室とか…。
 そう思考していたが、さすがにそこで話された方が嫌だった。
 しかし、その思惑は打ち砕かれる。
 斑は前を向いたまま。

「昔、保健室で自殺した生徒がいるんだ」

 さらっとこう言った。


 ――聞きたくなかった!!


 綱吉は「理科室にしませんか?!」と半ベソをかきながら訴えたが、斑は「鍵がない」と言い張って保健室に強制連行された。獄寺と山本も後から駆け付けてくると、丁度ホームルーム開始のチャイムが鳴り始めた。
 授業が始まるぞ、とシャマルに忠告されたが、斑は。

「女子が来たら呼ぼう」
「んじゃ、保健室任せたぜ〜♪」

 提案などしたわけでもないのに保健室独占の交渉が成立した。
 シャマルは陽気な足取りで保健室を出て行く。完全なる職務放棄だ。

 ――この人! 違う意味でタダ者じゃないっ!!

 にやりと嗤っている斑に、綱吉はまた恐怖を覚えるのだった。


∞∞∞


「えっと、それで九先輩…この手紙について何か知ってるんですか…?」

 斑は一間置いて、切り出した。


「お前達。並盛の『七不思議』を知っているか?」

 綱吉と山本が首を捻ると、斑はそれが不思議だと言わんばかりに首を傾いだ。

「といっても、君達と同じ学年の知識優が教えてくれたんだが…――」
「知識ぃ?!」

 突然出てきた知り合いの名前に綱吉と獄寺が食い付いた。山本は「そういやぁ」と天を仰ぐ。

「あいつ、最近ガッコ来てねぇなぁ…」
「図書委員会の副委員長として、委員会の談義には出席して欲しいんだがな。知らないか?」
「それは…――」

 綱吉が言葉を詰まらせる一方で、獄寺はきっぱり言い放った。

「十代目を罵ったこと謝らせるためにテストでバトルした。それに負けてから来ねぇ」
「獄寺君…オレは別に…」
「ようは引き籠もったということか…」

 斑は少しだけ視線を下に落とした。

「図書委員会で話が合うのが彼ぐらいだから、出来れば来て欲しい所なんだが…」


 ――えぇ。そのオカルト趣味に付いて来れる人って、そうクラスにいなさそうですよね。


 苦笑いを貼りつけて、そうですか、と綱吉は相槌をうった。
 獄寺がふん、と鼻を鳴らして腕を組む。

「オレはクラスメイトの前で土下座して謝るのが筋だと思ってる。それが条件なんだからな…――が、十代目はお望みじゃねぇからな」

 綱吉はきょとんとして獄寺を見やる。

「電話でもいいから詫び入れろってんだ、あの野郎。男ならそれぐらい約束果たせっての…」

 ブツブツ呟く獄寺が外方を向いて、綱吉は小さく笑みを浮かべた。
 以前の彼なら、ここまで妥協することはなかった。何が何でもクラスメイトの前でやらせるまで許さなかっただろう。否、それでも許さなかったんじゃないだろうか。
 目に見えて獄寺の精神に成長が見られ、綱吉はちょっぴり嬉しくなった。

「んで。七不思議ってなんだよ。いきなり切り出してくるにはそれなりの理由があんだろ? もしかしてコレと関係あんのか?」

 と、獄寺は靴箱に入っていた紙をぴらぴらと揺らした。

「じゃなきゃ、『テメェみたいなタイプ』は『赤の他人』であるオレ達に『近寄ってこねぇ』だろ」

 ――あ…。

 確かに、ここまでのやり取りで斑は『人間に興味がない』。人の話も碌に聞かないし、顔と名前が一致しない、覚えられないとも言っていた。それは間違いなく対人、人間関係において不得手や興味のなさの表れだろう。
 それに対して、興味のあるオカルトに関しての記憶力は抜群だ。そして興味の示し方も。
 黙して獄寺と睨みあっている斑を一瞥する。
 すると彼は、「ふむ」と目を細めた。

「その通りだ」

 斑は小さく笑って、居住まいを正した。


 ――何か、嫌な予感がする…。


 綱吉は沈黙漂うこの場で漠然と思った。
 斑は「恐れ入ったよ」と胸中を告げ、凛々しく目を煌めかせた。

「確証はないが、『呪い文』かと思ってな」
「の、呪い文?!」

 聞くからに畏怖を抱く単語に嫌な汗が止まらない。

「あぁ。その『呪い文』が七不思議に盛り込まれているのだ。七不思議と聞けば『学校の中』が一般的だろう? だが、並盛の七不思議は他の所と毛色が違ってな。『町全体で』七不思議が構成されてるんだよ」
「町…全体…――」

 綱吉は復唱する。
 まずは、と語りだした斑。
 薄暗い中の彼はさらに暗さを増して、一人だけ黒いフィルターを貼られたようだった。

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