日常編?
登校
ジョットが訪れてから5日経った、いつもと変わらない朝。
綱吉は低血圧の所為か、またまた秀忠に頼って着替えと朝食を済ませてからアルコバレーノ特待生教室へと向っていた。
赤茶のレンガが、学校と寮の道を繋いでいる。周りは整備された芝と木々に包まれて、清澄な空気を吸い込むことが出来る。いつものメンツにヴェルデが加わって、道の上を歩いていた。
「ヒデ。ツナを甘やかし過ぎだ」
「そんな事はない。綱吉は日本ではちゃんと自力で起きてた。多分、まだイタリアの気候に慣れてないんだ」
ぼやいた秀忠に、お前なぁ、と義兄リボーンは呆れた。
黒い髪がツンツンと立って、モミ上げがクルリと渦を描いている。イタリア人にしては珍しく黒い瞳を持っている。
リボーンは特待生の中でも特にずば抜けて優秀だった。
学年では常にトップで、運動にも長けている。
おまけに顔も良いときた。
趣味を含む特技は射撃。
腕前は百発百中。
射撃の世界大会に暇だからという理由で出場し、齢16歳という最年少記録を叩き出した揚句に優勝したという武勇伝を持っている高等二年生である。
「良いじゃないですか」と秀忠の隣に居た青年がその肩を叩いた。
大人びた、静かな口調で割って入ってきたのは風。黒いショートヘアーの後ろには、三つ網が腰まで伸びている。中国の拳法大会で三年連続優勝を納めている青年だった。リボーンと同じく二年生。
いつも笑顔が絶えず、何かと喧嘩の仲裁に入って来てくれる―――天然爆弾。
空気は読むべき所で読んでくれるが、それ以外は究極に読んでこない。怒涛の天然発言で相手を追い込む、中国原産の天然爆弾である。
「朝がどうしても弱い方は居るんですから」
と指を指した先には、スカルの肩を完全に借りている科学者風の男の姿があった。
ヴェルデは研究者と変態の呼び名を合わせて呼ばれるマッドサイエンティストだ。
利己的で研究以外には無関心。分析能力に長けている。
人間性にちょこちょこ問題がある為、風以上に所構わず爆弾発言をすることがよく見られる。
最近は匣兵器と呼ばれる手のひらサイズの箱に武器や動物を詰める実験をしていると言う。既に30%完成しているとは言っていたが、一向にその研究は進んでいないそうだ。代わりに、炎の特性の違いを発見したと大はしゃぎ。最近は執拗にリボーンと綱吉の炎の提供を求めている。
そんな彼が、まるで夜通し呑んだかのようにぐったりとしている。顎に生えている無精髭が、貧血という事実よりも飲んだくれた親父というイメージを一層掻き立てた。
「普段の不摂生が祟っているんですよ」
「リボーン…―――肩を貸せ…貴様の背丈が一番ベストだ…」
「貸すかバーカ。つーか、何で来た。研究室籠ってろ、変態研究者」
黙れと言い返したその声は気分が実に悪そうだったが、ざまぁみろというのがリボーンの本音だった。
もし綱吉が起きていたらきっと肩を貸しに行っただろう。それならば、秀忠が出ている方がマシかもしれないと思案しながら秀忠を一瞥した。
「何だ」
「別に」
「そういえば、まだ研究中でしたよね。どうして出て来たんですか?」
こちらを恨めしそうに睨んでいたヴェルデだったが、風の質問に暫く沈黙してからぼそりと口を開いた。
「今日来ないとデイモンに研究資金減らすと言われた…―――スカル、貴様じゃ低い…コロネロか風、肩を貸してくれ…」
「ご指名来たぞー」
「知るか、コラ」
「仕方ないですね」
そう言って、風がスカルの代わりにヴェルデを受け取ると、「いっそのこと、これでどうでしょう」と肩に担いだ。
「結構、軽いですね」
「…肩を貸してくれと言ったんだが…」
「ですが、ヴェルデの歩調に合わせていると遅れてしまいます」
「でも、デイモンが何でそんな事言って来たんだ?」
ヴェルデは知るか、と苛立たしげに風の肩の上で答える。再び下ろすように申請すると、仕方ないですね、と風は肩を貸した。
教師人の中で誰よりも謎の多い男である、デイモン・スペード。そして生徒の間で最も不人気であり子供嫌いと宣言している変わり者の教師。昔から彼を知っている人間としては自己利益のために地位、名誉など気にせず手段を選ばない所が気に入っている男だ。
ただし、それ以外は全くもって好きではない。
マーモンの極秘情報を入手してから数日は、彼に顔を向けられなかったが、まぁ慣れた。
時間とは素晴らしいと改めて思った。
ジョットもデイモンにはいつもしてやられると言うのに仲間だというのだから、信頼に値はするようだが、騙されてるんじゃないかとよく思う。
一番気が合うとすれば、ジョットの友人であり完璧な補佐を担当しているGだ。彼から教わることが多かったせいか、結構似ている部分が多い。完全に違うと言えるとしたら、人付合いが彼より上手ということぐらいだ。
「因みに、ついさっき言われた…」
「おいおい。随分急だな」
校内に入ると日差しが遮られて校内は涼しさを増す。
すると、突然秀忠が辺りをきょろきょろと見回した。どうやら綱吉と入れ替わったらしい。彼は振り向いて、柔和な笑みを浮かべた。
「おはよう、みんな」
ヴェルデを除いて、それぞれ挨拶をかわした。
「朝が弱いからってヒデに甘え過ぎだ。しっかりしろ」
「ご、ごめん…何か、最近起きれなくて…」
「早く寝ろ、バーカ」
しょげた綱吉の頭をわし掴んでぐちゃぐちゃと掻き回すと、綱吉はむくれて「寝てるよ!」と言い返して来た。
あっそ、と適当に返すと、綱吉は唇を尖らせてながら教室のドアを開けた。
そこでコロネロ達(勿論、ヴェルデも含む)連中から冷ややかな視線を浴びたが、そんな事は気にすることじゃない。
綱吉が来てからと言うもの、こいつらの過保護のような態度には慣れて来た。それを受け流しながら綱吉の後に続く。
「テメェらが甘やかすからオレが厳しくしてんだ。つーか、別に厳しくも何も…―――っと」
ドアの前に立ち止まっている綱吉にぶつかって、リボーンも立ち止まった。
「おい、何止まってんだ。さっさと中入れ」
すると、綱吉がそろりそろりと振り返る。その顔は怯えたように青く、少々目が潤んでいる。
何か見たのか、とリボーンも教室内部を見回した。
『気絶した人間と机が山積みになって』いて、その傍に見知らぬ生徒が2人向き合っているぐらいだ。人間はどれも白目を剥いて、最悪は怪我して血を流している。机はどれもひしゃげているか壊れていた。
リボーンは驚愕的な光景に映っているらしい綱吉の肩を押して、現実へと引き戻した。
「何してんだ。中入れよ」
「あ、あの山積みに対して何も突っ込みなし?!」
風がひょっこりと顔を覗かせて、コロネロが隙間から首捻じ込んできた。
「あぁ。こういうのは10回目ぐらいですからね」
「10回…ってことは、過去に9回もこんな事があったの?!」
「ザンザスを追ってきたスクアーロと、その次の日にレヴィとか言うムサイ奴がスクアーロに対抗してやって来た。それから連日な」
「連日ぅ?!」
「まぁ、一人でもっと山盛りだったからな。っていうか、連日どっちが人を沢山倒せるかって証明する為に山を高くしていったしな。あんま驚くことじゃねぇぜ、コラ」
「あっ!!」
教室内部から珍獣でも発見したような声がする。
すると、山の前に立っていた少年の内一人、白い少年が目を輝かせた。銀、ではなく白髪をドリアンのように跳ねさせて、眼もとには紫がかった青の逆三角形が三つ並んでいる。
そして、その少年は綱吉に『抱き付くように』飛びついてきた。
「綱吉クン!」
床に潰れた綱吉に構わず、白い少年は無邪気な笑みを浮かべた。
「久し振り、綱吉クン!」
更に少年は、綱吉を一層強く抱き締めた。
『登校』END
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