日常編? 祖父の提案 「ジャッポーネには、どんな年間行事があるのだ?」 夜、沢田綱吉の寮にやって来たジョットはそう問いかけて来た。 ワイシャツにベージュのパンツ、それに50とは思えない美貌を保ち、現在セッタン・テンポの理事長を務めている綱吉の祖父である。 「年間行事って?」 ‐正月とかだろうか?‐ 「正月?」 「そうだ。そう言うのを知りたいと思っているのだ」 こくこくと頷いてジョットは期待の眼差しを込めてくる。 綱吉は身体の中に居る兄―――秀忠に協力を要請することにした。 バニシング・ツインと呼ばれる現象で、双子として生まれてくる筈が片方を取りこんでしまう現象。たいていは死んでしまうはずなのだが、何故か兄である秀忠は意識が生きていて綱吉の中にずっと居てくれたのだ。 「でも、急にどうしたの?」 「ジャッポーネの行事を取り入れれば、綱吉達がもっと楽しめると思ったのだ」 ‐朝利雨月に聞けばよかったんじゃないのか?‐ 秀忠の疑問を伝えると、ジョットは「そのつもりだったんだが」と難しい顔をした。 「ねぶた祭りやら恵比寿祭りやらで毎月10日ほど祭りがあって、どれもこれも大変そうな行事で…―――」 ‐まさか、日本全土の祭りをチョイスしたのか?‐ 綱吉はわかったよ、と頷きながら秀忠と共に日本の年間行事を挙げていった。 すると、ジョットは不思議そうに『バレンタインデー』に指差した。 「クリスマスは良いとして、バレンタインデーもあるのか?」 「うん。バレンタインでーは年間行事だよね」 ‐チョコレートを渡すんだよな‐ 「そうそう。女子同士でお菓子作って盛り上がるんだよね」 ‐この時期、店頭に並ぶチョコレートがどれも美味しそうな奴ばっかりだしな‐ 「秀忠と何を話してるんだ? 私も混ぜてくれ」 ごめんと謝りながらジョットにその話をすると、不思議そうに首を傾げた。 「チョコレートを渡すのか? それは初耳だ」 「え? バレンタインって外国の行事だよね? チョコレート渡すんじゃないの?」 ‐チョコレートを渡す習慣は日本独自のもだ‐ 秀忠はそう答えて続ける。 ‐某チョコレートメーカーの商品販売の策略なんだって‐ 「へぇ。ヒデは何でも知ってるね!」 ‐聞いたことなかったか?‐ 「う〜ん…オレは覚えてな…―――」 じっと物寂しそうにジョットに見られ、またごめんと謝って宥めた。 今までの会話の説明をすると、ジョットはそうかそうかと嬉しそうに笑った。 「だけど、今は友達同士で交換してるよね『友チョコ』だっけ?」 ‐そうだな。男子で貰える奴の方が珍しいよな。ドラマでは渡してるけど現実は見たことないな…―――それなら、チョコレートを上司に渡すOLは居ないんだろうか‐ 「ねぇ、爺ちゃん。仕事場で女の人からチョコレート貰ったことある?」 「いや、バレンタインデーで、そういう経験はないが…」 ‐日本の独自の風習だって説明しただろう?‐ くすくすと笑った秀忠の台詞を思い出して、綱吉は苦笑した。 「つまり…同僚にも渡す習慣があると言う訳か?」 「うーんと。ヒデが言うには、ドラマでOLさんが上司の男の人に渡す事はあるみたいだって」 ‐渡す真義は定かじゃないけどな‐ 「言ってることが難しい…」 ‐…好きで渡してるか、お礼を込めてとか‐ 成程、と納得しながらジョットに伝えると、ふむふむ、とジョットは頷いて、ぽんっと手を打った。その笑顔が無邪気なこと。 「参考になりそうだ。ありがとう綱吉、秀忠」 「こっちこそ、忙しいのに気を使わせたみたいでごめんね?」 「気にするな。お陰で良い事を思いついた」 「良い事?」‐良い事?‐ くすくすと楽しそうに微笑むジョットに、綱吉は首を傾げて、秀忠は「どうしたんだろうな」と疑問を発した。 きっとそれがどんなものか、リボーンやジョットの仲間達であれば何を考えついたのか分かったかもしれない。 それが、今回の事件の、全ての始まりになるとも知らずに。 「じゃあ、また明日。楽しみにしててくれ」 「え? うん?」 ジョットは満足そうに笑うと、軽い足取りで部屋を出て行った。 〇〇〇 セッタン・テンポ学園。 お金持ちのお坊ちゃん、頭脳明晰、スポーツ、あらゆる分野で特化した人間が通う男子校。 イタリアでも学力はトップを誇るといわれている。 学生に利用させるのかと疑わしく思えるぐらい豪華絢爛な寮が配備された全寮制。 学生だけでなく教師陣の住居スペースも完備されている。 中庭、図書館、各種目別運動場などが設置されていて、セッタン・テンポ学園は敷地は国の大統領をも上回る敷地を誇っていた。 しかし、森に囲まれているため、街からここに来るまで車で二十分はかかるのが難点だろう。 基本、この学校は私服で、学年を表すために色別のピンで分けられている。必ず左胸につけるように指示されている。 中等部一年は黄色。 二年は緑、 三年は赤。 高等部一年は青、 二年は藍、 三年は紫。 小中高特待生クラスはオレンジとなっている。 小等部も黄色から一年となっていて、六年で紫となっている。 ピンの形は小等部で翼、中等部で貝、高等部でおしゃぶりとなっている。最上級生だというのに、何故かその形だ。 理事長でもあるジョットに聞くが『ぱっと思いついたんだ』という理由だそうだ。 綱吉と秀忠はジョットの発想力につくづく首を傾げるしかなかった。 そして、優秀な人間を詰め込んだ特待生クラス、『アルコバレーノ』に綱吉と秀忠は所属している。 綱吉達を救ってくれた、仲間達と共に。 そして5日後、ジョットの変な発想力に巻き添えを食らうことになるのだった。 『祖父の提案』END [次へ#] [戻る] |