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小説『Li...nk』
2...
 若い、聞き覚えのある少年の声だ。
 声が上から聞こえてくる時点でただ者ではないことは分かっていた。
 スカイサイクルから、というのも考えられるが、それは一般市民には禁止されていることであり、乗っていたらすぐさま通報されて取り締まりを兼ねている軍部の者にしょっぴかれていくことだろう。
 顔を上げて声の主を確認してみると、やはりただ者ではない、束縛された魂であった。
 スカイサイクルもなしに宙に浮いている。
 束縛された魂の少年は二人が気付いたと確認すると、にやりと笑い徐々に高度を下げ、リィとレイシャンの前に降りた。しかし今だ足元は地面から離れている。
「お前は………………束縛された魂!」
 指を差して言うレイシャンに宙に浮いている彼は怒っている、というよりも呆れたような目つきで呟いた。
「名前を思い出せないからって組織名で括らないでくれ。本当に傷つくから」
 指を顎に当てて彼の名前を思い出そうと唸っているレイシャンに、リィは彼より前に出て口を開く。
「リュウジ。一番始めにおっきな鳥から助けてくれた束縛された魂だね。名前くらい覚えようよ、レイ」

「まあしょうがないさ。二人に会ったのは大分前のことだし。むしろ忘れてて当然だよ。あ、そういや俺の故郷に行ってきたんだってね? 楽しかった?」
 束縛された魂の一人、リュウジは彼等の周りをふよふよと漂い、こちらの反応を伺ながら楽しそうに笑みを浮かべている。
 和国でも束縛された魂に会っている。組織間なら情報が通っていてもおかしくはない。
「……それで、いたいたってあたしたちを探して――っ!?」
 質問しようと開いていた口を急に止めたリィ。
 額から一筋の汗が頬を伝い、ぽたりと地面に落ちる。
「ど、どうしたのさ!?」
 レイシャンの言葉にも全く反応を示さない。
 束縛された魂はラインと闘う存在。それだけは不動の事実。リィとレイシャンはラインであるアリスと闘い、勝った。そして彼女を狩りに現れた束縛された魂の一人、ゼハードの邪魔をした。
 それは組織に敵対するのと同義であり、リュウジが二人を捜す理由としては十分だった。
 しかし、当のリュウジは何かを悟ったようにけらけらと声を上げて笑い出した。
「ははは、勘違いしてるみたいだけど、俺は二人を殺すためでもラインの友達を殺しにに来たわけじゃないよ」
「……そうなの?」
 ホッとリィが安堵したしたのを見てリュウジはくすりと小さく笑い、ベルトに挿していた鞘を掴んだ。
「――もっとも、闘うのは違いはないけどね!」
「え?」
 一瞬にして鞘から刀を抜き出して縦に一閃、振り抜かれる。
 反応に遅れて動けないリィにレイシャンは彼女を突き飛ばして無理矢理かわさせた。
「あ、ありがとう……」
 尻餅をついたまま、リィはレイシャンに礼を言う。
 一方レイシャンは彼女を見向きもせず、片手を彼女に差し延べて起き上がるのに手を貸し、もう一方の手で咄嗟に抜いた剣をリュウジに突き付けるように牽制する。
「礼を言うのは後。……それよりリュウジ! どういう意味だよ、闘うのは変わらないって」
 レイシャンの質問に今まさに戦う表情とは思えない笑顔でリュウジは答える。
「うん、セイルの頼みで二人の力を試してこいってね!」
「セイルの……」
 小さく呟いたリィの指輪が光る。
 それに気付いたリュウジはすかさず今より高く空を飛ぶ。
 間髪入れずに太い氷の柱が先程リュウジがいた足元から現れた。
 リュウジが飛び上がらなければ氷は彼に直撃し、ダメージを追わせていただろう。
「くっ……」
 悔しがるリィにリュウジはまるで今、戦闘をしてないかのような、あたかも遊んでいるかのように楽しそうに笑っている。
「残念でした。それにしても君のその技は厄介だな……」
 刀を鞘に納め、上空で腕を組みながら眉間にしわを寄せている。
 何か考えついたのか、彼は組む腕を解いた。そして空を泳ぐ魚ように迅速にリィの背後に回り込み手刀を振り上げた。
「少し眠ってて貰おうかな!」
 振り下ろされる手がリィの首に届こうとするのと同時に彼に向かって何かが勢いよく飛んでくる。
 武器である刀は既に鞘に納め、さらに言うと攻撃の最中である。
 彼は咄嗟の反応が鈍り、気づいた時には既に目前。彼は攻撃を止め、今まさに攻撃しようとしていた手でその何かを防御する。
 からんからん、と渇いた音を立てて地面に落ちたのはレイシャンの剣の鞘である。
「痛いな。人間だったら骨にひびが入るか、折れてるよ」
 腕を摩りながら呟くリュウジを無視し、そのまま彼に向かって剣を振り下ろす。
 しかしあっさりと身を翻してかわされてしまう。
「そんなんじゃ、俺を捕まえられないよ!」
「じゃあこれはどう?」
 リュウジの後ろから、リィが声をかける。
 彼がリィに警戒し後ろを見た瞬間、時は既に遅し、導火線のように彼を中心とし、リィ、レイシャンの周りを火が走る。
 次の瞬間、爆音が響くと同時に、火が走ったところから火柱が立ち上り、上左右を囲んだ。
「これは……!?」
「炎の鳥かご、とでも言えばいいかしら? これでリュウジ、あなたは空を跳べない」
 赤く残酷に燃え上がる炎の中、リュウジは手を空に翳す。
 しかし、何を思ったのか掲げた手を下ろし、ふっと一度苦笑いを零す。
「考えたね。風で火を消そうとしても俺まで巻き添えになる……でも」
 下ろした手はそのまままっすぐ伸び、彼の人差し指はリィを指差す。
「その技は君の体力を凄く奪うみたいだね」
 指差した先には、焔の鳥かごの角で片膝をつき、今にも倒れそうなこの鳥かごを造った主、リィである。彼女は暑さからではない理由からでる汗を拭い、睨むようにリュウジを見る。
「残念……体力だけじゃなくて頭にも来るのよね」
 一歩、また一歩と彼女との距離を縮める。
 そして自分の領域に入ったと悟ったリュウジは刀をおもむろに振り上げる。
「ふうん。まあ、君を倒せば済むんだけど――」
 瞬時に後ろを振り返り、上から振り下ろされる剣を刀で防ぐ。無論、それはレイシャンの剣であった。
「……やっぱりそうはいかないよな」
「当たり前さ。何か申し訳ないけど、倒させてもらうよ!」
 剣を交えた競り合いの中、リュウジは大きく刀を振り、レイシャンを弾き飛ばす。
「……俺、接近戦は向いてないんだよなぁ」
 小さく零すリュウジに、再び切り掛かるレイシャン。今度は剣先を見据え、軌道を読み、かわす。
 そして生じた隙にリュウジはその腹に拳を叩き込む。
 激痛が腹部に広がる、しかし耐え切れない痛みではなかった。
 瞬時に突き刺さったリュウジの腕を掴み、咆哮と呼べるような声を上げて、頭を彼の頭にぶつけた。渾身の、頭突きであった。
 その勢いで後ろに倒れ、尻餅をついたリュウジに向けて剣を突き付ける。無論殺すつもりなどはないが。
「能力に依存し過ぎ、だな」
 リュウジは一度大きなため息をついておもむろに両手を上げ、握っている手を解く。
 カランと音を立てて彼の武器である刀が落ちる。
 それは降参の意味を示していた。
 ただ彼の表情は負けた悔しさや怒り、死に怯える恐怖でもなく、楽しそうな笑みだった。
「うん。合格だよ二人とも。お前らは今から行く場所に行く資格がある。それにセイルに会う資格もね」
「ほん……とう?」
 今も続く炎の籠のせいで消耗しきったリィはかつてないか細い声で尋ねる。
 その質問にリュウジは大きく首を縦に振る。
「本当。……もう勝負は終わったんだ。この炎を無くしてくれない? 暑くて堪らないや」
 その言葉に、リィは弱々しく首肯する。
 次の瞬間、たちまち炎の勢いは弱まり、一分も経たずに火は消えうせてしまった。
 見知った町並みが視界に広がり、爽やかな風や匂いが鼻をつく。
 炎があった周りは煤けた石などがあり、なかなか不自然である。
「ふう、涼しくなった。んじゃ、俺はここで帰るけど、頑張って死なないようにね!」
 リュウジは一度深呼吸をして伸びをすると、振り返り、二人に向けて、さも友達同士であるかのように無邪気に手を振り、そして鳥のように空を飛び、レイシャンたちの視界から消えた。
「よかったね、リィ! セイルさんと会えるよ!」
 喜びとともに振り返るレイシャン。しかし、彼の目に映ったのは、地面に完全に臥した状態のリィだった。
「リィ!?」
 慌てて駆け寄るが、彼女は一言、大丈夫と言ってゆっくりと体を起こす。
 彼女の額には今だに汗が流れている。一体どれだけ拭ったのか、彼女の袖は酷く濡れていた。
「……大きな技を長く使い過ぎただけだから……。それよりも家に戻ってゼノンとアリスにこのことを話そう」
 彼女はレイシャンの肩を支えとして立ち上がる。肩を貸したレイシャンはリィが乗ってきたスカイサイクルを手で押しながらゼノンとアリス、その二人が待っている自分の家に向けて歩きだした。

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