小説『Li...nk』
12...
これ以上考えても解決することは無いため、大きな溜め息をついて足を進める。
入り口に着くと、そこに置いていた鞄を引き寄せ、中身を探る。
中に入っていたのは、ココから言われた通り、十日分の食料と寝袋が入っていた。
食料は何かを押し固めた固形物。美味しそうに思わせる欠片もない。
試しに一口かじると、やはり見た目通り。何とか食えるといった感じであった。
おそらく栄養的には問題ないのだろうが、このようなものを十日間も食べ続けることを考えると唸らずにはいられなかった。
一人の食事を短い時間で済ませ、寝袋を敷いて潜り込む。
寝袋の下に少し大きい石があるのか少し寝にくいが、そんなことを忘れさせるほど疲れが体を支配して、眠りに就くのにさほど時間はかからなかった。
レイシャンが目を覚ました時には既に日は高く昇っていた。
寝袋から這い出ると身体の節々に軽い痛みを感じる。
ごつごつした瓦礫のの上で寝た為か、それとも昨日、ほぼ一日中剣を振り回していた為か。
おそらくは後者、少なくとも彼は疲労が積み重なって寝すぎたことについては気にしてなかった。それにしてもよくラインに襲われなかったことに驚いていた。
今も辺りを見回してもラインらしきものは見受けられない。
ラインが現れる前にと、レイシャンは鞄から昨日と同じ種類の食料を胃に詰め込む。
水気も無く、またやはり美味しくもない。
溜め息をおかずに食事を済ませると、昨日と同じく鞄をこの場所に置いたままにして、剣を手に取り、再びかつて首都があっただろう方向を目指した。
昨日と違い、時間もあるので昨日より深いところまで行けそうだった。
しかし、どんなに進めど、あるのは瓦礫ばかり。瓦礫に埋もれているのだろうか、木はおろか雑草一本すら見られなかった。
調査を含めラインを探していると、不意に前方から瓦礫を踏む音が聞こえた。
慌てて剣を構えて戦闘体勢をとる。
視界に映ったのは、体はレイシャンの半分ほどという比較的小柄で、灰色の肌から突き出た尖った耳先と老人のようなしわくちゃの顔をした奇妙な姿をしたライン。
そのラインは知っていた。お伽話でよく聞く、悪戯好きな悪鬼“ゴブリン”
まさしく話通りの姿。
ゴブリンから目を離さずに剣を強く握り締める。
全て伝説通りなら、ゴブリンは見た目とそぐわない並外れた筋力を持つはずである。
目があった瞬間、ゴブリンは、おそらく、かつて街の一部として構成されていた、煤がこびりついた鉄パイプを振り上げた。
あまりに突然だったために反応に遅れたが、何とか剣を盾にして攻撃を防いだが、そのままつばぜり合い状態になってしまった。
互いに力が均衡している訳ではなく、徐々に、だが確実に押されてきている。
このままでは力負けしてしまうと考え、レイシャンは咄嗟にバックステップで後ろに下がる。
予想だにしていなかったのか、突如として支えを失ったゴブリンは前のめりになり、体勢を崩した。
「今だ!」
剣を振り上げた。
しかし、振り下ろすその一瞬でゴブリンは起き上がり、合間を縫うように颯爽と逃げて行った。
呆気に取られて追うのも忘れて立ち尽くす。やがてゴブリンの瓦礫を蹴る音が聞こえなくなると、ただ風が通り抜ける音のみとなり、虚しさだけが強くなる。
流石に長時間呆けている訳にはいかず、大きく息を吐いて気を入れ直す。
剣を強く握りしめ、一歩、また一歩と足を進める。
どれくらい歩いただろうか。
下が瓦礫ということも含め、余計に足に負担がかかる。
おまけに雲一つ無い空から太陽の光が体に突き刺さり、体力を消耗させた。
そんな中、目の前に大きな鞄が落ちているのを見つけた。
革製で頑丈そうな鞄だ。
それがまだ綺麗なところを見ると、どうやらランディールが滅ぶ前の物ではないが、誰かが落としていったのだろうか。何故こんな所に。
そう思索しながら鞄の中身を調べようと鞄に手をかける。
「……誰だ、あんた?」
目の前には黒い影。
驚いて振り向き、影の持ち主に目をやる。
そこには片手に剣を携えた、茶褐色の肌に金と黒の髪が特徴的な青年が立っていた。
装飾品としてピアスやらサングラスやらで人相が悪いため、かなり警戒してしまう。
「だ、誰だ!?」
剣を彼に向けながら尋ねる。
「いやいや、人の鞄漁ってるお前が誰だよ。……全く、大事な物が入ってんだからあまり気安く触るなよなぁ」
男は鞄を引っ手繰ると、肩にかける。
「そういや、誰だって言ってたな。……俺はゼノン。ゼノン・ローファンスだ。あんたは?」
ゼノンと名乗った柄の悪い男は見た目と反して警戒心を抱かせない純粋な笑顔で、手を差し伸べて握手を求める。
「俺はレイシャン・アルヴァリウス。よろしく、ゼノン。ところで……人のことは言えないけどさ、こんなところで何してるんだよ」
その言葉によくぞ聞いてくれましたと言わんばかりににやりと笑い、肩に掛けている鞄を優しく撫でる。
「俺はとある事情で家出してな、フィリスってラインを研究している方のもとで生活費の代わりとして、ライン研究を手伝うためにここに血液採取に来てるんだよ」
そう言ってゼノンは鞄の中を開けて見せる。
なるほど、中には何らかの血が八分目まで注がれたアンプルと空のアンプルがちょうど半分ずつ、鞄に敷き詰められていた。
これを研究に使うなら、確かにむやみやたらに触れられて欲しくないわけである。
そしてすぐさま鞄を閉じると、レイシャンをしかと見据える。
その目は「俺が言ったんだからお前も言え」と暗示させるものだった。
「……俺は闘いに慣れるためにフォアス帝国の南部司令官から連れて来られたんだ」
「おいおい、また無謀なことをするな」
それは南部司令官に対してか、はたまたそれに従うレイシャン自身に対してか。ゼノンは腰に手を当てて、呆れ口調で呟く。
実際、彼の言うことは正しいのである。
「どうしてもしなければならないことがあってさ」
暫くの無言。
一瞬、ゼノンは何か言おうと口を開いたが、すぐに止めて、首を横に振った。
「……なるほどな。理由は訊かないけど、まあ危険を侵してするんだからきっと凄い覚悟があるんだろうな。でもやっぱり危険だな」
彼は鞄を軽く叩き、レイシャンに耳打ちをするかのように距離を縮める。
「そこでだ、俺と一緒に行動しないか? そうすれば俺の仕事もはかどるし、お前の経験も上がる。それに二人だと危険も減るしな」
願ってもない話だった。レイシャンは迷うことなく首を縦に振った。
「それじゃあ決まりだな。改めてよろしく、レイシャン」
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