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秋冬春夏(完結)
10
二人は通っている大学も違ったがよく部屋を行き来していた。

その日はキヨカズが純の家に行く約束をしていて、バイト終わりに訪ねていった。
すると鍵が空いていて、玄関に純がうずくまっていた。今日みたいに。

シャツははだけて、ズボンも半分脱げた状態で、なにかあったことは一目瞭然だった。

隣に腰掛けて、顔を覗く。
俯いた顔は蒼白だった。顔や首には口紅とおぼしき赤い色がついていた。

風呂入ろうよ。寒いから。

キヨカズはなんと声をかけたらいいか分からず苦し紛れにそう言った。
しばらく返事はなかった。
しかしキヨカズは焦ることもなく待っていた。

そうだね。

ぼんやりした声だったが返事があり、キヨカズは風呂にお湯をはりに行った。

純が小さなバスタブに膝を抱えて浸かっているのをちらりと覗いて確認する。

当時純には彼女と呼べるものもなく、家に人を呼ぶようなこともなかったはずだ。
外であの状態になって帰ってくることはあるまい。おそらくこの部屋で何かあったのだ。

風呂の扉一枚はさんで、キヨカズは何が起こったのか思いを巡らせていた。

やがて風呂から上がってきた純は、ふらふらとトイレに入った。
そういえば、風呂とトイレが別の部屋だったなと、どうでもいいことを思い出す。

トイレから苦しそうな嗚咽が聞こえてきて、慌てて扉を叩いた。

純? 大丈夫か?

収まるまで待っていたがその後出てくる気配もないので、扉を開けてみる。

純は壁と便器の隙間に挟まって眠ってしまっていた。

純を引きずって布団に運び、自分は寝袋に入って様子を見ていた。

夜が明けるまでに何度かふらふらとトイレに行っては吐いて、さらにその日は一日中、浅い眠りと嘔吐を繰り返して過ごした。

キヨカズはたまたまバイトもなかったので、純に時おり水を飲ませたりしながらそっと観察していた。

昨日うずくまっていた姿から想像するには、誰かに襲われたんだろう。口紅がついていたから、女性だろうか。

次の夜が明けてようやく、純は目を覚ました。

キヨカズがお湯をさしたインスタント味噌汁をなめながら、呟くように我が身に起こった事件について教えてくれた。

色男は大変なんだな、と思ったがそれで済むような問題ではない。ただ、純は警察に届ける気はないらしかった。

話のなかで不思議だったのが、複数犯だったことだ。
男相手に腕力で勝てないから、独占欲を抑えて結託したのだろう。部屋に押し入ったのは3人だったらしい。

すでに女性に対して性的な恐怖があったし、もちろんその場が相当恐ろしかったのでどんなに刺激されても興奮できるわけもない。
壁に突き飛ばされて意識が朦朧とした中の曖昧な振り返りではあるが、性交には及んでいないと思う、と本人は言っていた。

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