アンタとオレの関係 -04 位置について、スタートの合図であるピストルの音を待つ。 隣には永作先輩。 目の前には白いラインと少し先に見えるバット。 Aから聞こえる、俺を応援する声。 Eから聞こえる、永作先輩を応援する声。 そんな中で。 「遼くん」 前を向いたまま、永作先輩が話しかけてきた。 それに、同じく前を向いたまま答える。 『なんですか?』 「俺、遼くんと勝負できてかなり嬉しいカモ」 『……ほんとに楽しそうですね』 声が笑ってるよ、この人。 だけど。 『俺だってかなり嬉しいですよ?』 張り合える人との勝負って楽しいもんね! そうして、同じ方を向いたまま、口を噤む。 ピストルが、鳴った。 走り出して、すぐにバットを手にする。 俺の方が小回りが効くから、永作先輩よりも早く次の障害物に行けた。 平均台、網、後ろ向きの30M走行までは俺がトップだった。 おかしなことが起きたのはパン喰いのとき。 衛生面を考えてか、パンは薄い袋に入っている。 因みに中身は細めで通常の半分くらいのフランスパン。 俺がそれを下からくわえようと口を開けたら、それまで応援の声でうるさかったはずの場内が静かになった。 ついで感じたのは、不特定多数の射るような視線。 吃驚した俺は、思わずパンから離れ、周りを見回してしまった。 「遼! 周りの目なんていいからさっさとパン取ってゴールしろ!」 健ちゃんの叫び声が聞こえるけど、そんなこと言われたって、うまくくわえられないわけで。 なぜかわからないが集まる周りの目を気にしながらも、俺は必死だった。 だけど。 一度気になったものはやっぱり気になってしまうもので。 俺の動きは鈍くなっていたようだ。 いつの間にやら隣に来ていた永作先輩は、なんなくパンをくわえて引っ張り、完全に紐から外れたのだろう、それを手にして、俺に一言。 「ゴチになりまーす」 『………………』 ブチッ 俺のバカバカバカーッ!!! 周りを気にする前に勝負の行方を気にしなきゃだった!! それからの俺は素晴らしいスピードを出したと思う。 ◆◇ [戻る] |