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映画備忘録
劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド&パール 幻影の覇者ゾロアーク(2010/07/10)
 何の脈絡もなくゾロアーク。『ディアルガvsパルキアvsダークライ』とどっち観ようか迷ったけど、こっちで。

 そんな感じに夏はポケモン!(秋)ということでゾロアークでござる。
 第4世代、いわゆるダイパの映画第四弾。シリーズ全体としては13作目にあたる。
 『ダークライ』『ギラティナと氷空の花束 シェイミ』『アルセウス 超克の時空へ』の三作から成るシンオウ神話三部作を終え、ダイパの締めを飾った作品。
 三部作ほどのスケールには欠けるが、一夏の冒険を楽しめる作品である。

 旅の途中、人気のスポーツであるポケモンバッカーを観戦するべくクラウンシティを目指すサトシ一行。
 しかし、ライコウ・エンテイ・スイクンの三体が暴れているからと街は封鎖されてしまっていた。
 伝説の三体のトレーナーである天才実業化、グリングス・コーダイがその実、悪党であることを道中で出会った謎のポケモン・ゾロアから聞いたサトシたちはコーダイの手からゾロアの仲間であるゾロアークを救出すべく、住民の避難の完了した無人の街へと乗り込むのだった。
 幻影で総てを欺き暴れるゾロアーク、かつて荒廃しながら元の自然溢れる環境を取り戻した街に帰還したセレビィ、街の危機を察知して集まる伝説の三体。
 強力なエネルギーそのものである「時の波紋」を巡る熾烈な戦いが始まろうとしていた――。

 物語そのものは至ってシンプル。自分さえ良ければそれでいい悪いヤツがいて、そいつに傷つけられるポケモンがいる。ならばポケモンを助け、街を守るためにサトシたちは悪党に立ち向かっていく。
 そこにいくつかの要素が織り交ぜられることで作品としての味わいがより確かなものとなっている。
 一つは王道。信頼し合える仲間と力を合わせることの強さと喜び。
 敵は強力な組織力と技術力、さらに悪辣な知性の持ち主。終始アドバンテージを握られた状況に陥りながらも諦めることなく知恵を絞り、皆が皆、持てる力の総てを尽くす。
 メインであるサトシ一行はもちろん、ゲストキャラクターのクルトとリオカ、ゾロアたちのみならず街に住まう小さなポケモンたちに至るまで。文字通りの総力戦である。
 先にシンオウ三部作にスケールで劣る、とは述べたが、その熱量は決して引けを取るものではない。
 特に、地下水路を走り抜けてとある目的地を目指す件は白眉。サトシたちはタケシの先導で水路を走るのだが、映画の冒頭で近道をしようとして森で迷ってしまうという、いわば前科がタケシにはあるのだ。
 それを引き合いに「今度は大丈夫?」などとツッコまれてしまうが、タケシは「信じろ」と笑み。それに対して「いつも信じてるさ」とサトシが返すのである。
 事実として長い付き合いのサトシとタケシ、仲間の確かな絆が感じられる。加えて、タケシはこの作品を最後にレギュラーキャラから外れることとなる。最後の出演映画なのである。いわば餞別のワンシーン。ファンならば誰しもぐっとくること間違いない。

 もう一つは「化かしあい」。
 物語は悪党コーダイによる情報操作が徹底されている。コーダイはある目的からゾロアークに街で暴れさせることで住民を街から退避させ、それを抑えるという大義名分を用意することで街で自由に行動する下地を整えたのである。
 そのためにCG合成を多用した映像まで用意する念の入用。メディアを抑えるほどの影響力を持つ実業家としての力をフルに活かしたカタチ。いわば、情報操作で人々を「化かして」しるのである。
 これに対してゾロアークもまた「化かす」。なにせこのゾロアーク、ばけぎつねポケモン。幻影を見せることで人を化かすのはお手の物。
 物語は嘘と真実が入り混じり、人々はそれに踊らされる。そこに描かれるのは嘘を吐く人間の醜さではなく、自らの目、自らの考えで真実を見極めていくことの大切さだろう。
 人に言われたこと、見せられたものをそのまま鵜呑みにするのも危ねーぞ、というお話なのである。すでに8年前の作品だが、SNSの発達著しい現在から思えばなおのこと身にしみるメッセージである。

 そして、何より。個人的に推していきたいのは、ここまででも幾度か話題に出した悪役。グリングス・コーダイである。
 これがまた悪いヤツ、イヤなヤツなのだ。
 傲慢でエゴイスティック。他人を自分の成功のために蹴落とす対象としか見ていなさそうな独善、悪辣。目的のためなら何でもやる。白のスーツからはある種のナルチシズムも感じさせる。
 自己利益のためには街一つの犠牲も厭わず、ポケモンも平然と痛めつける。周到な情報操作で人々を欺く様からは「自分以外は総てバカ」とでも言いたげなほど。
 とにっかく、イヤなヤツなのです。声の演技を務める陣内孝則さんがよくハマる。好きなんです、陣内さんの悪役。『軍師官兵衛』の宇喜田とか。
 総ての言動が嫌味なヤツだが、特に印象的なシーンが二つある。
 秘書を務めていたリオカ(実は潜入していたジャーナリスト)の離反を知るシーン。そして、エピローグシーンである。
 元々とある事情からリオカの離反は予知していたとはいえ、いざ目の当たりにしても「お前が裏切るのは知っていた」とニヒルに笑う。この時、部下のグーンは「なぜリオカが」と驚いているのがポイント。コーダイはリオカの離反を予知しながらグーンに知らせていなかったということになる。
 腹心といっていいほどの相手に知らせなかったとは意地が悪い。おそらく、コーダイはグーンすら根っから信用しているワケではないのだと思われる。先述の通り、サトシたちが一致団結しているのとは非常に対照的に映る。
 そして肝心の最終シーン。夢破れ、総ての悪事が露見したコーダイは警察に逮捕され、警察車両に乗り込む。
 ここ、ここなのだ。ほんのワンカットなのだが、ここなのですよ。コーダイは眼を閉じ、やや上向きに踏ん反り返っているのだ。その様子からは全く悪びれたものが感じられない。神妙にお縄についたなんてヤツではないのだ。隣で失意と共に項垂れるグーンとはえらい違いだ。
 というか、グーンの存在大きいな。グーンはその一挙手一投足でコーダイの悪役っぷりを引き立てている。なんかグーンも好きになってきた。
 とかく、悪役たる者改心するべからず。悪とは最後の最後まで悪だから美しいのだ。その一点のみでもコーダイは素晴らしい悪役だといえる。

 全体的に褒めちぎりすぎて悪い部分を書くのが億劫になってきたが頑張ろうと思う。
 物語の視点がサトシたちとコーダイに集中するあまり、ゾロアークやライコウ・エンテイ・スイクンたちの描写がやや取っ散らかった感がある。お前ら何で来た、というか。話がややこしくなっただけじゃねえか、というか。
 このいわゆる「伝説のポケモン枠」とでもいうべき部分はポケモン映画においてノルマ的に存在する要素といっていいのだが、正直、この映画においては完全に蛇足になっている。他作品でも「いらなくない?」「本当に必要だった?」と首を傾げることは多々あるが、伝説の三体に関しては特に余計になっている。
 メインのはずのゾロアークもパンチに欠ける。それなりに活躍しているし、常に物語の中心にいるはずなのに、だ。やはりしゃべれるとそうでないのは違いが大きいのか。個人的には伝説のポケモンといえどそうそうしゃべってほしくないのだが、こうなると頭を抱えてしまう。

 あとはやっぱりスケールダウン。まあ時間だ空間だ反転世界だやっていたのだから多少は仕方ないが。
 『ダークライ』で街まるごとの危機を描かれていて、今回は街の自然が枯れ果ててしまう、ではね。いや、十分深刻なんだけども。
 なんだかんだと言ったけども結局はコーダイ一人の存在で総て許したくなるんだけどね。

 採点:80点
 大好き。ただやっぱり伝説組がねえ、いらんよね。




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