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映画備忘録
魔法少女リリカルなのはDetonation(2018/10/19)
 当サイトでもおなじみ、リリカルなのはの劇場版第4作。前作『Reflaction』の続編であり完結編となる。
 シナリオ自体はPSPゲームソフト『A's Gears of Destiny』を下地にしつつ、再編・新規の要素を織り交ぜたカタチに仕上がっている。
 思い返せば『2nd A's』が2012年、3rd発表が2013年。まさしく、待ちに待った、である。

 死に行く故郷エルトリアを救うべく闇の書を求めるキリエ、それを止めるべく地球へと急行したアミティエ、黄泉還った闇の書の闇たるシュテル、レヴィ、ディアーチェ。
 異世界からの来訪者から始まる騒乱は、キリエを煽動してきたイリスの裏切りによっていよいよ混迷を深めていた。
 闇の書と、それに連なる少女ユーリを確保したイリスは東京に潜伏。その力を存分に振るうべく着々と準備を進めていく。
 なのはたち時空管理局の魔導師たちは東京に広域結界を展開。異世界の協力者たちも交え、無用の被害なく事件を解決せんと胸に誓うのだった。
 ユーリとは何者なのか、彼女を憎むイリスの正体は、戦いの行く末は如何に。
 アミティエから預かった力をその手に、なのはは空を行く。悲しい出来事を悲しい結末で終わらせないために――。

 と、まあ、いつもの。
 ある程度の前振りは前作で十分やったので今回はその決算。バトルバトル&バトル。たまに過去バナ。そんな具合で物語は進行する。
 シリーズの例に漏れず、とにかくキャラが多い。多いったら多い。映画四作分のキャラクターがほぼそのまま出てくるのだから多いに決まってる。二時間ほどの尺を所狭し時短しと一杯キャラクターたちが動き回るのはそれだけで贅沢感がある。最後までチョコたっぷりってなもんである。
 中でも、最大の見所なのはやはりマテリアル=シュテル、レヴィ、ディアーチェの三人なのだろう。ゲーム『Battle of Aces』でコンパチキャラとして登場し、続く『GoD』で一個のキャラクターとして成長してきた彼女たちがいよいよアニメで大暴れ。ファンならそれだけで嬉しいこと請け合いといえる。例の三色団子もあるヨ!
 とはいえ、話の主軸は完全に新キャラ、イリスにある。ぶっちゃけ今回は彼女の物語といっていい。それはもちろん悪い意味ではない。『無印』がフェイトの話であったように、『A's』が八神家の話だったように。今回はイリスの話なのである。
 内容のほどは、是非劇場で。前作の引きではどうなることかと思ったが、終わってみればイリスもちゃんと好きになれるものである。

 さて、実はもうこれ以上言うことがない。
 というのも、要するにどこまでいってもいつも通りの『リリカルなのは』だからだ。それは磐石の安定感であり、この上なく退屈極まりない。
 もちろん、ストーリーにはある程度の驚きがあり、意外な展開が待っている。『GoD』から再構築された設定は既知のファンなればこそ新鮮な味わいをもって楽しめるものだろう。ニャー。
 ただ結局『なのは』という作品は『無印』『A's』から離れることはできなかった。『StrikerS』で試みられた世界観の拡大、作品の躍進は『Force』をもって失敗に終わったのだ。Movie 3rdの製作発表で提示された「完全新作」の文字が霞んで見える。
 可能性を殺したのは誰だ。製作者か、ファンか、あるいは自分か。私には判別がつかない。

 アクション描写も個人的にはイマイチに感じられた。
 煌びやかな魔力光が画面一杯に飛び交う様には見応えこそあれ、ただ派手なだけである。ドッグファイトを遠景で描くカットは独特な味わいがあって悪くないのだが、近寄ると途端に陳腐に映る。キャラごとに個性はあるはずなのだが個性を理解するより早く場面が変わっていく。人間の脳みそはそこまで高性能でないのだと思う。
 特にエルトリア独自の技術、アクセラレイターの描写には悔いが残る。
 要するに一時的な超加速能力なのだが、これがひどくメリハリに欠ける。ざっくり言ってしまえば、高速戦闘の中に超高速戦闘を交えてもピンと来ないのである。
 その描写に求められるべきは速さでなく遅さ。加速したキャラを描くより、加速に追随できないその他を描くべきなのである。
 これがどうにも惜しいのである。遠くにいたはずの敵が一瞬後にはもう目の前にいる、など良い描写も確かにあったのだが。繰り返しになるが、速い中に「すごく速い」を盛り込んでも映えないのだ。

 当然、キャラの扱いにも格差がある。多いからね。
 設定再編によりユーリ&マテリアル組の立場がエルトリア寄りになったことで、必然として八神家との接点が減っている。一応リインフォースにも触れてはいるがそれだけで良しとできるほど大らかにはなれない。
 フェイトは、まあ、前作のレヴィ戦で大体やりきったので。今回はなのはさんとひたすらイチャイチャしてるだけというか。個人的に「あれ、フェイトさんってこんなに明るい声してたっけ?」なんて思ったが、『A's』から『StrikerS』の過渡期と考えればこんなものなのかもしれない。ちょっと惜しい。
 主役のはずのなのはも出番自体はそこそこだが、大トリをばっちり務めて存在感をどうにかキープしている。相変わらず命を削りながらの戦いはある意味必見。そりゃ『StrikerS』前に無茶が祟って撃墜されるよ。改めてなのはの、やや歪な内面に切り込んだのは英断と称えたい。

 作品は確かに面白かったのだ。だが『2nd A's』から6年もの歳月を待ち続けた甲斐があったかと思えば、首を傾げてしまう。『Reflaction』から1年ほどを開けた前後編である必然性があったのかと悩んでしまう。
 ゲーム出身のキャラクターがアニメーションで生き生きと動く様を観る喜びよりも。際限なくキャラを増やし、切り捨てることもできず、ただボリュームを肥えさせるばかりの悪習にウンザリする。
 加えて、これは映画の内容そのものとは関わりないが、ウィークリームービーとやらが心底から不愉快だった。
 映画には余韻というものがある。あって然るべきだと個人的に思う。長いスタッフロールと共に映画を観た満足感を噛み締め、浸っていたいのだ。
 それを一切の躊躇なく粉々に砕くのがウィークリームービーとやらだ。SDキャラによる意外に長い尺のショートムービーは蛇足という言葉を思い起こさせる。しまいには「また来週」と締めくくる。要は週代わりで違う内容を上映するからリピートしろ、というのだ。あまりに露骨すぎて内容の可愛らしさより不快感が満ち満ちる。二度と観るものかとさえ吐き捨てたくなる。
 重ねて言うが、映画はとても楽しめるものだった。その感慨に嘘はない。それがあるいは有終の美に成り下がる事実が嘆かわしいのだ。

 採点:60点
 間違いなく良作なのだが、6年の待ち時間は失望を育てるのに十分すぎた。

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あきゅろす。
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