山茶花の夢小説
らっぱのマーク 11

 せっかくたのしみにしていたクリスマスのパーティはシオン教皇の『荘厳ミサ』の前に軽く済まされることになってしまったわ。何しろ24日の晩から25日にかけて行われるわけだから、すっっごく残念な事にお酒が飲めないのよね。

 勿論私たち医療関係者や直接関係ない業務の方々は別に飲んでもかまわなかったんだけど、招待されている身で飲めない人たちの前でとても飲めたもんじゃないわよ。いくらわたしが大酒呑みだからって言っても、やっぱり仁義にもとるってやつよねぇ。だから公平に、全員で清く正しくソフトドリンクのみで行われたわ。

 シュラさんはノンアルコールのパーティになったことを自分が悪いみたいに謝ってくれたけど、美味しいお料理を作ってくれた。逆にデスマスクさんはぶーぶー文句ばかり言ってたわ。イタリア人にアルコールなしのディナーなんて考えられないんでしょうね。

「だいたいよ〜、肝心のアテナがいらっしゃらないのにミサ何ぞやる意味ないんじゃないの?」
「…そういうな。シオン様にも何かお考えがあってのことだろう」
 ふくれっつらのデスマスクさんを宥めるのは、こちらも上機嫌とは言いがたいサガさん。
「そうかな?考えられるのはアテナの御為ではなくて、シオン教皇の自己満足な気がするのは否めないな」
「アフロディ…お前まで」

 あ〜あ。サガさんのこめかみがひくひくし出しちゃった。もとよりサガさん自身がカノンさんをジュリアン君のおうちのパーティに借り出されちゃって機嫌が悪いのよね。そのうえデスマスクさんとアフロディーテさんが煽るものだから。

「…ホントの所はわかんねぇけど、TVかなにかでキリスト教の大聖堂とかでやる厳かな奴を見て自分もやりたくなったんじゃねぇの〜」
 あの爺さんああ見えて結構ミーハーだかんなとデスマスクさんは嗤う。

 あたしもね〜…言いたくないけれど、デスマスクさんの言うのが当たっていると思うの。絶対やってみたかっただけだわよ、きっと。あのだだっぴろい教皇の間に蝋燭を何百っぽんも…いや、何千本かしらね。ともかくたくさん灯して、蝋燭の明かりだけでミサをやりたいなんて、さぞかしきれいだろうケド、後の掃除が大変でしょうね〜。きっとシオン様はそんな事など考えてもいらっしゃらないかも、ね。

「仕方がないではないか。シオン様のおっしゃることは絶対だ。現にアテナの許可も得ておられる」
「そのア テ ナ ご自身がお留守なんだが。青銅のガキどもに聞いたところじゃお屋敷でクリスマスパーティやらかすそうだぜ、ウチの女神さんわよ」
「ご覧いただけない儀式などに何の意味があるというのだ?サガよ、あなたもおかしいとは思わないのか」

「…TV局が来る」

「えぇっ?」
「なんだって!」
「なんと!」

「シオン教皇がどういう伝手か知らんが衛星放送に話をつけて、荘厳ミサの間中生中継をやるらしい」
 
 シオンさまッたら…どこまでミーハーなのかしら。でも、沙織お嬢さんは日本にいるはずよ。

「…スポンサーはグラード財団。アテナの映像は先取りしたものを編集ずみだ。…わかったらさっさと用意をしろ。せいぜい英気を養っておけ。ただの儀式だと思うな、ここは戦場だと思え」

 サガさんがにがむしを噛み潰したような顔でテレビ局が来るといった途端、廻りの反応が違ったわ。サガさん自身もふっきれたようだったし、お祭り騒ぎがすきそうなデスマスクさんや、一見そういう風には見えないアフロディーテさんまでが水を得た魚のようだった。

 クリスマスパーティ改め荘厳ミサ攻略の壮行式みたいになってしまったパーティにわたしがぽかんとしていると、シュラさんが内緒でカクテルのタンブラーを渡してくれた。

「慌しくてすまないな。この埋め合わせはニューイヤーパーティで取らせてもらおう」

 埋め合わせも何も・・・サンタさんありがとう。

 私の頬が赤くなったのを酔っ払ったせいだと勘違いしたシュラさんがあわてたけど、体育会系のノリで盛り上がっている皆さんには気づかれなかったみたい。
 
 後日城戸邸で件の「荘厳ミサの」模様の録画を見せてもらったけど、みなさん物凄く格好よかったわ。

 もちろん私にとっては誰かさんが一番格好よくみえてたわよ。

                    おわる

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