山茶花の夢小説
らっぱのマーク 9

「やぁ、Dr.サエラ。ちょっといいかな?」
 カウベルの音がカランと鳴って、特徴ある黒髪のつんつん頭が顔を出す。…あれ、シュラさんお久しぶり。最近お見かけしないなあと思っていたのよね。

 スーツケースと大きなかごを下げたシュラさんは、どさりとかごを医務室の机の上に置いたの。大きなかごね、シュラさんが持つにしてはえらく可愛らしいけど。
「訳あってしばらく故郷に帰っていた。よかったら、故郷の土産だ、みなで分けてくれ」
「わぁ、ありがとうございます。みんな喜びます」
 シュラさんの持ってきた大きなかごの中には美味しそうな生ハムがごろごろ。…シュラさんの故郷ってどこだったかしら?ハムの名産地なのかな?こういうのは本人に聞くのが一番よね。
「美味しそうなハムですね。シュラさんの故郷のお土産って、故郷はどちらなんですか?」
 下心がありありかしら?

「オレの故郷はスペインの片田舎だ。もう累系は居ないのだが、地元で大きな祭りがあったので手伝いに借り出されていた」
 あら、初耳ね。スペインの人って情熱的で陽気なイメージがあるのだけど、ストイックで真面目なシュラさんとはかなりムードが違うような・・・。まぁ、決め付けは良くないし、シュラさんだって情熱的なのかも・・・。
 やだ…顔が赤くなっちゃう…。ともかく…闘牛士の衣装は似合いそうね。と言うか、ものすっごくかっこいいかも!見てみたいなぁ。

「どうした?顔が赤いようだが…」
 怪訝そうな顔のシュラさんと目があっちゃって、うわぁ…恥ずかしい。ますます頬が熱くなってきちゃう。
「そんな顔をすると、まるでトマトのようだぞ」
 トマト…せめて林檎と言って。
「いやぁ、失礼。妙齢のご婦人にトマトは無かったな」
 まるで、私の心の声が聞こえたかのように申し訳なさげに笑って訂正してくれた。しまった、顔に出ちゃったかな。

「この一週間で一年分のトマトを見たんでな。つい口に出てしまった。許してくれ」
 許すも何も気にしてませんからぁ。やだなぁ、シュラさんったら…。
「いえ、かまいませんけど…一年分のトマトって?」
 ミロさんやカノンさんあたりだったら、背中をどやしつけて差し上げるけど、シュラさんにそれをしたら目を白黒させそう。これでも私も乙女の端くれだもんで、そこは押さえとくべきよね。
「あぁ、オレの故郷には『トマト祭り』という奇祭があってな。今回の帰省のメインはそれなのだ」
 嬉しそうに話すシュラさんに釣られてこちらも笑顔になっちゃう。
「トマト祭り?」
「そう『ラ・トマティーナ』。トラックに何台分ものトマトが町を覆いつくすんだ。今年は100tものトマトが用意されたそうだが、開始と同時に皆で投げ合って大騒ぎだ」
「トマトを…投げ合うんですか?」
 なんか凄そうなお祭りだわね。
「あぁ、一時間限定だがな。その一時間で街中がまっかにそまるんだ。普段は小さな街なのに祭りの前後は3,4倍に膨れ上がる。みんなトマトを投げ合うために世界中からやってくるんだぜ」
 …物好きな人も居るもんだとは思うけど、目の前の子供みたいに瞳をきらきらさせた人を見てると楽しかったんだなって優しい気持ちになるわ。

「そのトマト祭りの始まる合図が、高い棒の先に吊るされた生ハムを奪い取ることなんだ。ハムが取れなければ、いつまでたっても祭りは始まらないのさ」
「あぁ、それでハムなんですね」
「そう、まさかトマトを土産にするわけにもいかんので『勝利者の名誉』と言う名のハムにした。前菜にすると旨いぞ」
 
 本当に楽しそうに笑うシュラさんに、こんどご馳走してくださいっていいたいなぁ…。


                   終

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あきゅろす。
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