山茶花の小説
樽チェアのこと   その後4

「アポロコーストはどうだろう?」
 
 ガイドブックを眺めていたラダマンティスが言った。
「ほら、ここだ」
 ガイドブックの指差す先を、カノンも覗き込む。
「スニオン岬の近所にリゾート地があるってのも皮肉だな」
「どうする?」
 
 期待に眼をきらきらさせたラダマンティスはかわいい。本人が聞いたら憮然とするだろうが、まるで『ステイ』をくらった大型犬がしっぽをぱたぱたさせているようで、カノンは楽しくなってきた。

「お前が行きたいなら、俺は其処でいいよ」
「じゃあ、此処で決まりだな。それでは、交通アクセスの方は…」
「交通アクセスったって、俺たちは光速で動けるじゃないか?乗り物を使う意味などないが」
 きゃう〜ん…上目遣いのラダマンティスの想像上の耳がぺしゃんとうなだれ、しっぽが力なく振られるのが見えたような気がした。

「…わかった。何に乗ればいいのだ?」
「ここからなら、アテネで乗り換えのバスがある。大体一時間チヨットらしい。」
「う〜ん、1時間か(しかも、アテネまで出るのは遠回りじゃないか)」
 時間がもったいないような気がするがなぁと言う不満が顔にでてしまったのか、ラダマンティスの表情が情けなくなってくる。

「いけないか?おれは、お前とその…でーと…というものをしたかっただけなのだが」
 おいたをしでかして、叱られるのを待ってる犬の顔だなぁとカノンは思った。同時に、この男の口からデートなんていう言葉が出るとは世も末なんだろう。

「わかったから。バスに乗りたいんだろう?ただし、アテネまではテレポートするぞ。お前はともかく、この格好でアテネは恥ずかしい」
「あぁ、勿論だ。俺はバスの中でお前と弁当をつつき合ったりしたいだけなんだから」
 バスの中が飲食禁止だったらどうする気だよ。カノンは普通にそう思ったが、いわずにおいた。

 ご機嫌にしっぽをぱたぱたさせているでかいわんころに、水をかけてやることもあるまい。


##clap_comment(拍手ください!)##


[*前へ][次へ#]

55/470ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!