山茶花の小説
樽チェアのこと   その後3    

 さて、お弁当も飲み物も用意した。シートに後、何がいる?

 ジューススタンドに立ち寄って地図を広げ、二人して顔を突き合わせて作戦会議を始める。

 「さぁ、何処へ行こう?今から行ってそこそこ遊べて夕方には帰ってこれるところって何処があるかな?」
「俺はこのあたりには詳しくないからな。お前に任せる」
「任せられても、俺だって観光地などくわしくないが…」
 二人して額をくっつけんばかりに思案する。
 ふと、ラダマンティスが顔を上げれば、瞼を伏せて思案するカノンの白い額が見えた。
 綺麗にそろった長い睫毛、すっきりと通った鼻筋、そして形の良い唇…。
 
 ドキンとラダマンティスの心臓が高鳴った。
 (もし、此処でキスしたら、カノンは怒るだろうか?)
 さいわい。あたりに人影は途絶えてちょっとしたエア・ポケット状態になっている。
 
 一旦意識してしまったものだから、カノンの唇から眼が離せない。
 この前唇を合わせた時はどうだったかとか、唇を離した時のカノンのうっとりした表情とかが頭に浮かんできて、独りこっそりとうろたえた。
 
 カノンが不埒な小宇宙に気付いて顔を上げたとき、あまりにも挙動不審なラダマンティスを目の当たりにして複雑な表情になった。
 
 冷めた目で見られていると思い込んで、打ちひしがれるラダマンティスに、クスリと笑ってカノンはテーブルに置かれた無骨な手を握り、身をのりだしてラダマンティスの唇に啄ばむようなキスをした。

「心配しなくても後でたっぷり可愛がってやるよ」
 
 ラダマンティスの薄く開いた唇を、人差し指でつついてにっと笑う。
「…そ…それは俺のセリフだろう!」
 さすがに憤然として言い返せば、にんまりと笑われた。
「だって、今のお前 か わ い い ぜ」

 ラダマンティスは真っ赤になって黙り込んでしまった。


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