山茶花の小説
3000HITリクエストでロスカノ その12

「待たせたな、カノン」
 足取りも軽く執務室に戻ってきたサガは、誰もいない室内に肩透かしを食った。
「待ってろと言っておいたのに、仕方のない奴だな」
 折角何かおいしい物でも食べに行こうと思っていたのにと、頭を一つ振ってひとりごちる。大きく開かれた窓から爽やかな風が吹き込んできていた。

「まったく、人の気も知らずにマイペースなのは治らんな。お前と二人で聖域の聖闘士食堂に行ってみたかったんだが。子供の頃には行けなかったからな」
 いつも双児宮の地下に閉じ込められていたから、カノンは食堂に行ったことがない。
 サガとて、独りで食べる食事は砂を噛むようで味気なかった。たとえ同じ聖闘士仲間に囲まれての賑やかな食事でも、暗い地下室でお腹をすかせているカノンのことを思うと居たたまれなかった。

「まぁいい、どうせ遠くには行くまい。ランチを二人分テイクアウトすればいいか」
 執務室の重い扉が閉まる音がした。

 足音が遠ざかるのを待って、執務室の大きな机の影からこっそりと人影がまろびでる。
「…サガに見つかったらどうする気だったのだ!」
「見つからなかったんだからいいではないか」
 太陽のようににっこり笑う男に、カノンは心底げんなりした。同時に己の物だけでなくカノンの小宇宙をもサガの眼から隠し通したアイオロスの力量に舌を巻く。見た目どおりの筋肉馬鹿ではないらしいと遅まきながら気が付いた。
 伊達に次期教皇の認定は受けていないと言う事か。

 ゴールデン・トライアングルの光の中でカノンの髪が翼のように見えた。
「ほんとはお前を帰したくないよ」
「アイオロス」
「双児宮に帰れば、今度はお前はサガに抱かれるのだろう?」
「…」
「お前を俺のものにしてしまいたいよ」
「それはできん。俺はアテナの聖闘士である以上、俺の体はアテナの物なのだ」
「フッ、そう来たか」
「お前もそうであろうアイオロス」

 光の中で微笑むカノンは、煌々しいほど美しかった。

「お互いにアテナのために生きようぞ」

 それだけ言い残して金色の光は消えた。

 一人残されたアイオロスには、カノンの苦し紛れのいいわけだと言う事はわかっていた。でも、あまりにも光の中のカノンが綺麗だったので何も言わずに行かせてやった。

 「何処の誰ともわからぬまま、10年も探し続けたのだ。いまさらそう簡単に諦めてやるつもりはない。あいにくと、俺はしつこい男なのでな」

 アイオロスはにやりと笑うと執務室を後にした。


                 終


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