山茶花の小説
3000HITリクエストでロスカノ その10

アイオロスは眼の前が不意に真っ暗になったような気がした。

 会いたくて会いたくてずっと探していたあの子が、自分の宮に眼と鼻の先の双児宮の地下室にずっと閉じ込められていたなんて。しかもかなり酷い目に合わされていたようだ。
 助けてやれなかった自分が悔しくてならない。
 
 デスマスクと分かれて自宮に戻った後も、胸の辺りがずっともやもやしていた。今までアテナをお救いするために命を落としたことを後悔等したこともなかったが、初めて得る事のできなかった時間を惜しんだ。
 
 しかし、実際はそのときですら遅かったんだろう。サガの狂気は、ちいさな弟を自分の手で閉じ込めなければならなくなった時か、それより更に前から始まっていたのだから。

 サガを問い詰めたとしても、もう遅いだろう。総ては、既に終わってしまった事なのだから。アイオロスが知らないうちに始まって、アイオロスの知らないうちに終わってしまったのだ。

 陽だまりの中で笑っていたあの子は、サガの双子の弟で双児宮の地下に閉じ込められていて、兄弟喧嘩で、スニオン岬に幽閉され、そこから海底神殿へ辿り着きそのまま海闘士になった。そしてアテナに反逆したものの改心してアテナの僕になり、聖戦を駆け抜け、冥界でハーデスの3巨頭のうちの一人と刺し違えた。
 なんとめまぐるしい人生だった事だろう。

 聖戦のほんの序盤で舞台を降りた自分と違って、黄金聖闘士たちは皆多かれ少なかれ劇的な人生を生きた。なかでも、やはりジェミニの双子が一番数奇な人生だったのだろう。
 傍に居ながら気が付く事ができなかった自分が歯がゆかった。気付いたからってどうこうなったとは思えなかったが、こんなに蚊帳の外に置かれた気持ちにはならなかった事だろう。

 アイオロスは、カノンに近ずいてみる事にした。ほんとうに、あの時のあの子なのか知りたいと思ったのだ。

 いまはもう、はるかな昔にことになってしまったけれども、それでももう一度あの時の笑顔にめぐり合いたかった。
 それにはカノン一人きりの時を狙わねばならず、思ったより困難な事だった。第一にカノン本人が聖闘士でありながら、海闘士でも有るのでなかなか聖域にいつかないことと、聖域に居る時にはほとんどサガといっしょにいることだった。

 サガの隣に居ても、服装から何からほとんど好みに似た所のない双子だった。いつも笑顔を絶やさないサガにくらべて、カノンはくるくるとよく表情がかわった。
 小さな子供によく好かれて、聖闘士候補生たちの面倒もよく見た。青銅たちにも好かれているらしく、彼らが聖域に居るあいだは、よくあちこち連れまわされていた。

 やはり、カノンがあの時のあの子に間違いないようだった。くるくるとよくかわる表情、そして不意に見せる花のほころぶような艶やかな笑顔。

 一旦確認すると、今度は自分の物にしたくなった。 
 サガがアイオロスに弟の事を隠し続けたのは、こうなる事を見越していたのかもしれない。まだ14年しか生きてないものの、射手座の星の導くままに色事と性技にかけては百戦錬磨のアイオロスの前に弟を差し出す気にはなれなかったと言うことか。

 見た目通りの体育馬鹿、脳筋男を演じるのはもはやお手の物だ。権謀術数をめぐらし、人の裏を読む事が得意だと周りが知ったら驚くだろう。
 ただ流石にシオン教皇と、長年の付き合いのあるサガにだけは勘付かれていたのかもしれない。

 ただ、幾らサガとは言え24時間の監視は無理だったと見え、12宮を留守にしている隙にちゃっかり戴く事ができた。カノンは今だに、俺が見た目通りのいたいけな少年だと思っているらしい。あれから何度も体をあわせていると言うのに、一向に俺が見た目通りのお子ちゃまでないことに気付かない。
 
 14歳も年下の子供に絆されるまま体を許してしまった罪深い年上のひとに浸りきっているので、其処を突いてやるとたやすく思い通りに抱く事ができた。
 しばらくは長年の片思いが成就した気になっていたが、ある時ふいに気付いた。

 甘えられると弱いのは、カノン自身に人に甘えた経験がほとんどないからだ。

 だからどう対処していいのかわからないので、つい言いなりになってしまうのだということに。

 それに気付いた時、カノンが不憫になった。それと同時にあいつを俺の手で幸せにしてやりたいと思ったのさ。

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あきゅろす。
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