山茶花の小説
3000HITリクエストでロスカノ その1

 普段は静まり返った教皇の間の控え室から、賑やかな声が聞こえる。いつもはシオン教皇とその補佐官である射手座の黄金聖闘士アイオロスと双子座の黄金聖闘士サガが、様々な書類や伝票等と格闘しているその部屋に、今日は珍客がいた。

「おい!この書類の続きは何処だ?」
 ばさばさと分厚い書類綴りを振り回して、張りのある声が尋ねる。
「それは、こちらのコレとつながりがある。更に、コレとコレに関係してくる」
 もともとの書類よりさらに分厚い書類綴りをどさどさと幾つも重ねて、同じ声の主が差し出してくる。
「うへぇ、なんでこんなややこしい問題をこんなになるまでほおって置いたんだ?」
 山のような書類の束を溜息と共に受け取って、換わりに疑問を一つ投げかけてみる。
「私に訊かんでくれ。これらはもともとアイオロスの担当する案件だったのだ」
 こちらも、広い肩をすくめて溜息を一つ。
「で、そのアイオロスは何処にいる?」
「知らん。私のほうが聞きたいくらいだよ。よくもまあ、こんなに仕事を残したまま雲隠れできる物だな」
 期日というものをなんと思っているのだと、一人ごちる兄に折角の休日を返上してまで付き合ってくれている同じ顔をした弟は、笑いながら飲み物を用意する。
 
「ま、いない奴に文句を言っても仕方ない。さっさと片付けちまおうぜ」
かちゃかちゃとティーカップの紅茶に砂糖を山盛り2杯溶かし込みながら、頼もしい事を言ってのける。
 サガは差し出された紅茶を受け取りながら、弟の顎を捕らえて口付ける。薄く開いた唇から舌を滑り込ませ、口腔内を堪能する。溜息と共に離れた唇から銀の糸が光った。

「苦いな」
 顔を顰めるサガにコーヒーを飲んだからだとカノンは笑う。
「とりあえず、今は仕事をしようぜ。お楽しみは帰ってから、た・っ・ぷ・り・と。なっ」
 今度は弟からかすめるだけの軽いキス。それを最後に自分の席に戻り、コーヒーを飲みながら書類の束と格闘を始める。分厚い書類を繰り、机上のパソコンで資料を調べ統計を取る。左手でペンを持ち、右手でキーボードを操る器用さで書類の束も見る見る減っていく。
「一時はどうなる事かと思ったが、お前のおかげで時間までに何とかなりそうだ」
 机の上でトントンと書類をそろえて、眉頭を揉むじじむさい仕種にカノンは優しい眼を向ける。
「疲れているのだな。この仕事が終わったら、ゆっくり休みを取るといい。」
「独りで休みをとっても仕方がない。…お前は付き合ってはくれんのか?」
 甘えたような眼で強請ってくる兄に弟は笑いながら片手を振った。
「生憎そうもいかん。今度は俺のほうにも期日がくるのでな。当分は休みは返上だ」
 残念だったなと軽くいなしてしまった。

「あと少しだ、がんばろうぜ」
 すっかりやる気をなくしてしまったサガに、カノンはとっときのご褒美を用意する。
「これが終わったら、好きな事をさせてやるよ。なんでもお前の言う事をきいてやる。」
 あんな事やこんな事もな、兄の瞳を見詰めて舌先で上唇をなめる。妖艶なまなざしはサガのハートを射抜いたようだ。俄然やる気を出して、ばりばりと書類を片付け始める兄を見て単純な物だとこっそり笑う。
 同時に明日の出仕は、昼からにして貰わないといけないなと心の中で思った。

 流石に有能な人間が二人掛りで臨めば、さしもの大量な書類の山も次第に崩れ去っていき、何とか約束の期日までに報告書を纏め上げる事ができた。

「助かったぞ、これでシオン様のお小言を聞かずにすむ。私はアテナ神殿までこの報告書を届けてくるから、ここで待って居てくれるか?後で一緒に食事でもしよう」
「あぁ、わかった。なるべく早く帰って来いよ」
 人が変わったようにうきうきと出かけていく兄をカノンは微笑みながら見送った。
 
 兄の帰ってくるまでに散らばった書類を片付けておこうと立ち上がったカノンの耳に、窓の外から不審な物音がした。

 何事かと振り向いたカノンの眼に、壁の外側から伸びる手が映った。
「何奴!」
 慌てて駆け寄ると、窓の外に居た人物は窓枠をつかんだ手をてこにして室内に飛び込んだ。
「待った!カノン!俺だよ俺!」
 必殺のギャラクシアン・エクスプロージョンを喰らわそうと身構えていたカノンに、窓から侵入した不審者は慌てて自分の顔を指差してみせる。

「アイオロス!どうして!」
 カノンは思わず叫んでしまっていた。


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あきゅろす。
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