山茶花の小説

3000HITリクエストでロスカノ



 あれは、4つか5つの頃だったと思う。あの頃の俺は向かう所敵ナシの悪ガキだった。白銀聖闘士だった父と、聖闘士候補生だった母との間に生まれた俺は、その頃から既に頭角を現していて、もう少ししたらちゃんとした師匠について聖闘士の修行を始める事になっていた。
 俺が出来た事で聖闘士や聖闘士候補生をやめざるを得なかった父母は、いつも懐かしそうに聖域について語るし、12宮以外なら一般にも開かれていたので広場やら練兵場にはちょこちょこ顔を出したりしていた。

 そんな時に、お気に入りの小さな泉の傍で、同じくらいの男の子に出会った。見慣れない子供だったので、何処の子か尋ねると今日からここに住むことになった子らしかった。ついで、名前を尋ねると頬を染めて小さい声で
「…ないしょ」
 と、だけ言った。今から思えばもうその時点から存在を隠されていたんだなと思えるけど、その時の俺はただ単に意地悪で名前を教えてくれないのだと思った。
 まっさおな瞳と、同じ色の柔らかそうな巻き毛の女の子みたいに可愛い子だったから、余計にそう思ったのかも知れなかった。
「ないしょはひどいぞ!俺はアイオロス、君の名前は?」
「ないしょだもぉん」
 くすくす笑いながら逃げてゆくその子を追っかけて森中を走り回った。途中で野ウサギや小鳥だのが飛び出してきたりして、その子はきゃあきゃあ笑いながら楽しそうに走っていったので、追いかけるのも楽しかった。何度か捕まえられそうになりながら、いつも間一髪で逃げていくので、俺もいつしか夢中になった。 二人でけらけら笑いながら森中を転がりまくった。

 でも、楽しい時間はそう長くは続かなかった。赤みがかった空を見て突然その子が帰ると言い出したから。
「ごめんね。もう戻らなくちゃ…心配するから」
「うん、楽しかったよ。また一緒に遊ぼうね。」
 小さく手を振るその子が、きゅうに駆け戻ってきて、おれのほっぺたにちゅ、とキスしてくれた。
 
 俺は自分のほっぺたが見る見る熱を持ってくのが自分でわかったよ。
「またね!」
「…こんどあったときに、名前教えてくれる?」
 走って帰ろうとするその子にそれだけ言うのが精一杯だった。
「…うん」
 その子の返事も本当に聞こえたのか定かじゃなかった。

 それから、何度も泉の傍へ行ってみたけれども二度とその子に会うことはなかったよ。


 何年かして、正式に射手座を拝命することになったお披露目のパーティで、俺は双子座のサガに会った。
 俺はてっきりあの時の子だと思って再会を喜んだけれどもサガの反応は「?」だった。
「俺のことを覚えてないのか?」
「…君とは初対面だと思うのだが?」
 しょんぼりする俺に向かって、サガは右手を差し出してにっこりした。
「これから友達になればよいよ。私は双子座のサガ、よろしくねアイオロス」

 それで俺たちは友達になった。
                     終
 
 
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あきゅろす。
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