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久遠の空 【完結】
13.欲しい物はただひとつ

限りなく続く
雲一つない青空。


ついにこの日がやってきてしまった。
俺、土方十四郎と松平くり子の結婚式だ。

式の予定は10日前に決まった。
勿論天野家にも招待状は送ったが、不参加の返事が来た。
久遠には、何も言えないまま…
中途半端なまま、この日を迎えてしまった。



そういえば、5日前…
天野家の嫡男、銀時様が行方不明になったと聞いた。一緒にいたのは、容姿から見ても間違いなく久遠で、今では奴らがどこに行ったのかすらわからない。


総悟やお妙、神楽とはなぜか音信不通で、結婚式に来るのか来ないのかすら不明。


「旦那様、お時間ですよ。皆さんお集まりです」

「そうか…」


山崎が俺を呼びに来る。
こいつも随分とシャンとしたもんだ。オーバーワークで、サボる暇すらないからな。


「久遠の…姿は?他の奴らも…」


ゆっくりと山崎が首を降る。
やっぱり…か。

期待した方が間違いだったのか。
それとも、あれは一夜の夢だったのか…
忘れた方がいいことだったのかもしれない。

大体、あいつがいなくなったのだってこの家を…

俺達を、メディアから護るためだったんだから、ここに来ないのもあたり前…なんだよな。





式を始める時間になって、俺一人でバージンロードを歩く。
牧師の前で止まると、後からとっつぁんとくり子がゆっくりと歩いて来る。


真っ白なドレスに化粧をしたくり子は、本当に綺麗だと、心から思った。

けど…
足りない。



「どうで…ございまするか、十四郎様?」

「綺麗だな、本当に…」


俺の真意も、何も知らないくり子は素直に顔を綻ばせて喜んで、二人揃って祭壇まで歩く。

牧師の話を聞く間、俺は、違う事を考えていた。


ついに
久遠は来なかった。
くり子と夫婦になる前に、しっかりケジメをつけておきたかった。
そして、謝りたかった。
あの日…
止めることも出来ずに行かせてしまった事を…
久遠の過去を聞いたのに、またあいつを…
一人にしてしまった。



「では指輪を交換し、誓いのキスを…」


リングホルダーに納められたエンゲージリングが運ばれてくる。

俺は、それを手にはとったが…
嵌めることが出来ない。
頭の隅にあいつが…
久遠の笑顔がちらついて、どうしても躊躇ってしまう。


「十四郎…様…」

「…!!」


意を決して、嵌めようとした瞬間だった。

教会の観音開きのドアから物凄い破壊音。
それに伴い、濛々と土埃が舞う。


「だ…誰だ!!」


誰かが侵入者に鋭い声でそう叫ぶのが聞こえた。

土埃が晴れて、見えてきたのは逆光に照らされる5人分の人影。

そいつらは思い切り聞き覚えのある声で、堂々と名乗りをあげた。



『邪魔者戦隊 デストンジャー、見参!!』


いや、デストンジャーってなんだよ…

土埃の晴れ、顔がハッキリ見える。

銀時、総悟、眼鏡にチャイナ、お妙が各々ドレスアップして、それぞれ武器を構えてポーズを構えていた。

恥ずかしくないのか、コイツラは…


それよりも…久遠がいない。

ついに来なかったのか…

と思ったときに、懐かしいダルそうな声が教会に響いた。


「アンタら、よくそんな恥ずかしい事出来るよねェ…。俺には絶対に無理」


最後に一人、光の中から出てきたのは…
最も待ち侘びた人物。
足音を響かせ、ゆっくりと歩いて来るそいつは…


「だ…誰なんだ、貴様らは?!」

「俺達はこの結婚式をぶち壊しに来た破壊の使者でさァ。とは行っても、主役はこっち…」


デストンジャーは真ん中を開けて、全員そいつを指差した。
ドレスアップ…しかも化粧までして、全身にバズーカやらショットガンやらを仕込み、ヘラヘラと笑っている。


「天野久遠、参上つかまつった!!」

「天野…だと!?すると例の…!!」


驚き、ざわめく奴らを挑発するように、ニンマリと久遠が微笑む。


「この結婚式、ぶち壊しに来ました!!皆の衆…この俺様が許す。派手にやっちまえ!」



バズーカを構えた久遠の号令で、奴らが暴れはじめる。
ついさっきまで厳かな式場だった教会は、あっという間に戦場と化した。

ドレス姿で武器を奮い、教会をぶち壊して行く久遠は、驚く程綺麗で、今までで1番輝いて見えた。






奴らがあらかた暴れて、既にその6人ととっつぁん、近藤さんと数人の招待客しか立っていない。
それ程までに奴らは圧倒的だった。

呆然とした客の一人が発した言葉に、6人全員がニンマリと微笑んだ。


「き…貴様らは一体…」

「ただの、家出した天野家の長男でーす」

「ただのサドでさァ」

「僕はただの…「ただの駄眼鏡アル。私はごく普通の女の子ネ」

「ちょっ、神楽ちゃん?!駄眼鏡はやめようよ!!」

「煩いわよ駄眼鏡。私は普通に久遠ちゃんの味方です」

「え、姉上まで駄眼鏡なんて…」

「しょうがねェよ駄眼鏡。因みに俺はただの執事だ、…最強のな」



それぞれが自信たっぷりに笑うと、残った客はみんな逃げ出して、教会内には俺達だけになる。

微妙な空気を割くように、久遠が歩き出して、とっつぁんとくり子の前にひざまづいた。



「ごめんなさい、くり子お嬢様、片栗粉様…。恩を仇で返すような事をして…。でも、もう俺は我慢をやめました。ですから、好きにして下さい。俺が責任って、コイツら護り切りますから!」


そういって胸をはった久遠の顔に、迷いは無かった。
奴は、晴れやかな笑顔を浮かべて続けた。


「好きなモンは好きなんです。だから、力ずくで奪いに来ました。くり子ちゃん…ごめんね。こればっかりは、諦めきれないよ」


泣き出すかと思ったくり子は、意外にも優しく微笑んだ。


「わかっているでございまする。十四郎様と久遠様が、お互いに愛し合っている事は…。私は、諦めるつもりでしたから。そのかわり久遠様、必ず、十四郎様を幸せにしてくださいでございまする。じゃなければ一生怨みつづけるでございまするから」

「当然!……とっつぁん、本当にごめんなさい。でも、俺…」


泣き出す寸前の久遠を、とっつぁんに向き直る。とっつぁんは、溜息をついて笑っていた。


「まったく…久遠だからよかったものの…。次、くり子泣かしたらテメェらどうなるかわかってるだろうな。天導宗には俺から話を通すから、どこへでも好きな所に行きやがれ」

「ありがとう…ございます、父さん…。絶対に幸せにするし、幸せになるから…!!」

「テメェの親父になった覚えはねェよ」



久遠は顔を見合わせて微笑み、とっつぁんに抱き着いた。
こいつにとっては、とっつぁんが父親みたいなもんなんだろう。

とっつぁんも、少しだけ泣いていた。


それから久遠は俺の前に来て、ひざまづいた。


「旦那様、お迎えにあがりました」

「おかえり、久遠」

「只今戻りました。遅くなりまして申し訳ございません。では、行きましょうか」


立ち上がり、ニコリと微笑んだ久遠は、その細腕のどこにそんな力があるのかという怪力で俺を担ぎあげ、歩きだした。

…おっと、くり子に言うことがあったな。



「くり子、すまねェ!!俺はやっぱり、久遠を愛してる!だからテメェも、幸せになれ」

「わかりましたでございまする!!速く行って下さい、追っ手が…!!」


扉を見ると、さっき逃げた奴らが衛兵を連れてもどってくるのが見えた。


「久遠!!」

「わかっておりますとも!!…総員待避!俺について来い!!」


久遠は俺を担ぎ、追っ手を撒いて奴らと一緒に走りつづける。

俺はその背中で、ずっとくり子を見つめていた。


「トシ、お前いいのか?多分土方家は取り潰しになるぞ」

「…いいんだ。そんなことより…俺には久遠がいればそれでいい」


近藤さんが隣に並んで言う。
家が無くなるのは正直どうでもいい。
俺にはもう覚悟が出来てるし、1番大切な物はこの手の平の中にある。
これから先、何があったって、もう二度とこの手を離したりはしない。





この奇妙な一行は、走って走って、知らない土地の知らない原っぱで漸く足を止めた。

全員疲れきって、そのまま草むらに倒れ込んだ。久遠も俺を降ろした後、草むらに倒れるように寝転がった。


「オイ久遠、平気か?」

「…勿論。それより土方、誓え!」

「何を?」

「俺は生涯、土方の側に立ち続ける事を誓う。お前が世界で1番好きだから」

「…わかった。俺も、久遠の事愛してるから、生涯テメェの側にありつづける事を誓おう。…絶対だ」



草むらで、8人だけの小さな小さな結婚式を挙げた。

教会も牧師も、指輪すらも無くて、俺の服はともかく新婦のドレスが汚れまくった状態だけど、そんなことは気にならなかった。

俺にはそんな小さな事より、これから先、ずっと久遠と一緒にいれることが、大切だったから。








初めてコイツを見たとき
その銀髪に
どうしようもなく惹かれた

欲しくなった
一目見て
銀髪も、紅い目も
久遠の全てに惚れた

使用人の時だって
久遠は特別だった




つまるところ
俺は久遠に
ベタ惚れだってことだ。





1番欲しいものは手に入れた。


俺にはもう…
富も、名声も、名誉も
家さえも必要無い。


ただ
たった一人だけ


久遠がいれば
それでいい




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あきゅろす。
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