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久遠の空 【完結】
11.俺の道



久遠が屋敷を出ていってから、既に一週間が過ぎて、久遠がいなくてもちゃんと回るこの屋敷に違和感を感じていたりした。


朝、楽しそうに起こしに来る久遠はもういない。
手紙を放り投げる久遠がいない。

奴の笑顔が無いだけで、屋敷の中は何倍も薄暗くなった気がした。


くり子はいるが、やっぱりアイツに勝るモンはねェ。


久遠が望み、俺が望んで側に置いていた筈だった。
なのに、あんな写真一つで久遠は消えちまった。

引き止める事が出来なかった自分自身に、酷く後悔していた。



久遠のいない薄暗い書斎で、俺は一人書類を捌いていた。
山崎は、今は何してんのか…

久遠が消えた穴は奴一人じゃあ埋まらなくて、山崎は完璧にオーバーワークだ。



ため息をついて、茶を煎れてもらおうとして…


ふと、久遠がいないのだと気が付いた。


アイツはいつも影みたいに俺の側にいて、俺を支えてくれた。
…今はもういない。

それが妙に虚しかった。



「トシ、入るよ」

「近藤さん…」


予期せぬ来客。
近藤さんがいて、隣には総悟がいるはずが…
いねェ。

隠れている訳でもない。
ただ、いなかった。


首を傾げると、後ろから物凄い勢いで後頭部に何かが当たった。
気になって後ろを向いた俺は後悔した。


銀時と総悟が、二人揃ってバズーカを構えていたから。
バズーカから発射された弾頭は、俺が何かリアクションを起こす前に俺と、近藤さんに綺麗に当たった。

黒焦げの視界の中、『久遠なら今のバズーカも微笑みながらいなすんだろうな』と思ってしまった俺は、相当奴に依存しているのかも知れない。



……
………
…………


「で、何のようだテメェら?久遠ならいねェぞ、家に…帰った」

「元より久遠さんにゃあ用はねェ。あったのは土方の首ただ一つなんでさァ」

「そうそう…。可愛い妹が憔悴しきって帰ってきたからお兄ちゃんが復讐してやろうかと思ってな」


ニタリと笑いながら、総悟と銀時の二人が俺の首に刀を突き付ける。

…いやマジでなにがしたいんだコイツら。
俺には理解出来ねェ。
こりゃあアレか、下手に答えたら喉かっ切るぞチックなパターンか?


「トシ…お前、結婚するんだってな?松平くり子様と…」


流石、情報が早い。
黙って頷けば、二人の殺気が更にレベルアップして、肌をチクチクと攻撃する。


「結婚だなんて、大層なことですねィ土方さん」

「したくてするわけじゃねェ。…天導衆の命だ」

「へェ…上からの命令、素直に聞いちゃうタイプだったんだ、大串くんって…。噂通りのヘタレっぷり」

「噂通りってなんだコラ?!それと俺は土方だ」

「…久遠ちゃんは、どうするんだトシ?」

「アイツは…ただの執事だ」



そう…―
久遠はただの執事で、俺はただの旦那様。

…それだけの関係だ。
それだけの…筈なんだ…


「土方さんやっぱりアンタ、死んだ方がいいみたいですぜィ。アンタみたいなヘタレな主人、久遠さんだって要らないでしょう」

「んだと総悟…もう一遍言ってみやがれ!!」

「何度だって言ってやりまさァ!!土方さん…アンタ、久遠さんの事、どう思ってるんでさァ?そんな顔してる位なら、くり子さんにゃあ悪いが婚約者も家も、その無駄に高いプライドも捨ててさらいに行きゃあ済む話でしょうが。それが出来ないから、いつまで経ってもアンタはヘタレなんでさァ!!」


言うだけ言って、総悟は出ていった。それを追い近藤さんも出ていって、部屋に、銀時と二人で取り残される。


「俺ァよ土方…、今まで久遠を護りきれなかった。だからせめて、久遠を泣かせる奴がいたら、そいつが神様だろうが仏様だろうが殺してでも久遠を護る。…テメェに、この覚悟はあるのか?」

「…覚悟?」

「久遠を、命をかけて側に置きつづける覚悟だ。テメェの大事なモン全て捨ててでも、久遠を護れるかって聞いてんだ」



静かな銀時の声。
でも、その真紅の瞳だけは死んだ魚の目ではなく、爛々と輝いている。


俺はその問いに、すぐに答えられなかった。
俺には久遠を救うため、どうすればいいのか解らない。
俺が望んでも、久遠が望まなければ?
俺の側にいることをアイツが拒否したら、俺はどうすればいい?


「俺も久遠も、覚悟はしてる。後はテメェがどうするか、だ。……じゃあな」


銀時は、何も言えない俺を残して帰っていた。
入れ違いに、くり子がコーヒーを持って入ってくる。


「…マヨラ様、お話は終わったのでございまするか?」

「ああ…お前ならどうする?お前が俺の立場なら…」


ああ、俺は何を言っているんだ。
くり子に言ったら、それこそ最低な奴じゃねェかよ俺。
あー…みっともねェ…


「私は、久遠様もマヨラ様もどちらも好きでございまする。だから、二人ともに幸せになって欲しいのです」

「…くり子?」

「好きな人の為ならば、自分が不幸になろうとも構いませぬ。好きな人には笑っていてほしい、幸せでいてほしい…、そう…思いますから」

「そうか…」

「はい。だからくり子なら、久遠様をさらいに行くでございまする。さらって、久遠様がそこにいることを望むのなら止めはしません。笑顔で見守ります」


久遠をさらって、奴が天野家にいることを望むのなら、自由にさせる。

くり子はそう言ってるのか…


皮肉だな。
くり子は俺が好きなのに、俺にアドバイスしたばっかりに、不幸になろうとしている。俺が、幸せになる為に…

だが、くり子の言葉で靄が晴れて、自分の進むべき道がはっきりと見えてきた気がする。



「ありがとう、くり子。…ごめんな」

「いえ、私は好きな人の為、出来ることをしているだけでございますから」


華のような笑顔に、俺の心は暖まる。
女はなぜこんなにも強いんだろう?
心とは真逆の事をいい、泣きたい時には綺麗に笑い、華を咲かせる。


多分、俺が決めたことを実行したらとっつぁんに殺されること間違い無しだ。

でも…
俺は、俺の道を歩こうと思う。

久遠が望もうが望まなかろうが関係ねェ。
俺が、久遠の隣にいてェんだ。
無理矢理にでも、押し通す!!


覚悟は決まった。
俺は、久遠をさらい出す。

テメェの我を
通す為に…



〜続く〜

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あきゅろす。
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