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土方
スキキライ


ある天気の良い冬の午後のこと。


真選組平隊士の私は、副長と偶然ある事件の調査に行くことになった。

それは別に何でもないこと。ただ今日は二人だけだった。

パトカーに二人きり。


だから、私はこう言ってみた。



「私、あなたのこと嫌いです」



ボトッ


赤信号で停止していた車内に何か音が響いた。


副長がライターを落としたのだ。


「……聞き間違いか?」
火の着いていない煙草を加えている。何だか間抜けだった。


「信号、青です」

淡々と述べる私に対して戸惑いが見えた。
車は急に発進する。

「聞き間違いじゃないですよ。私、副長嫌いですから」


私がそう言うと、副長は拾ったライターで煙草に火を付け直した。
少しだけイラついているような態度が見える。
いきなりそんなこと言われれば、誰だってそうだろう。


「………そうかよ。嫌われるほど、お前とたいして交流ないと思うんだがな」


確かに、平隊士の私は特に副長と普段会ったり話したりするわけでもなく。
挨拶をしたり、たまにこうして一緒に仕事をするだけだ。


「あ、だからって仕事には影響させませんから。ただ言いたかっただけです。覚えておいていただければ、それで」


「…………」


無視かよ。



多分、副長は今機嫌が悪い。
多分じゃないな、絶対機嫌が悪い。


わざわざ口に出してしまう私もどうかと思うけど。
車内に二人だけ、気まずいったらありゃしない。






それから3時間後。
無事調査も終わり、屯所に帰ることになった。

もう外は真っ暗だ。


そして、またパトカーに二人きり。





沈黙にもそろそろ飽きてきた。



「理由、聞きたいですか?」

私が不意にそう言うと、副長の眉間に皺が増えた。

「別に、聞いたってどうしようもねぇだろ。俺にダメなとこ直せってのか?」


…皮肉たっぷりですね。

「直せますよ」

「…おちょくってんのかお前」



それにしても機嫌が悪い。ただの平隊士の一言にこんなにあからさまにへそ曲げなくてもいいだろうに。





でも本当は副長が怒る理由、私知ってる。




「…副長」

「……」

「…私、が、副長のこと好きだと思ってたでしょう」



煙草は二箱目突入だ。



「……あ?」

「私が副長のことずっと見てるって、沖田隊長から聞いたんでしょう」





きっと、副長は自惚れていたのだ。


自分を好きかもしれない女の子。その子から突然"嫌い"発言されたからびっくりしてる。

怒ってるところを見ると、まんざらでもなかったんじゃないですか?




でも甘いですね。



「…何が言いたいんだよお前は」

「私、"お前"じゃないです。ちゃんと名前あるので」



副長はいろんな女の人に好かれている。
まぁルックスいいしな。マヨラーだけど。

だから多分慣れている。そして、その中に特別な人はいないんだ。

私のことも、その女の中のひとりだと思ってたんだ。その他大勢のひとりだったんだ。


「モテるからっていい気になってるんじゃないんですか?女はみんな一緒なんですか?私は"お前"なんですか?」

急に饒舌になった私に副長は押されている。

「………おい」

「はい?」


ついトゲトゲしい返事になる。




だから、甘いんだって。
私のこと、ちゃんと見てないでしょう。



「落ち着けよ、何でお前がキレてんだよ」

「………誰に言ってるんですか」



このままでは拉致があかないと思ったのだろう。
明らかに疲れた顔をする副長。

「……なまえ!!これでいいんだろ!?」

「…ええ、まぁ」


車はちょうど屯所に着いたところだった。

誰も今までパトカーでこんなやり取りが行われていたなんて予想していないだろう。



私は静かに車を降りた。



私は、その辺の女と一緒にされていることが非常に不満だった。
『その辺の女』だってまぁ、いろいろあるんだろうけどさ。

私を見かける度、もしかして『こいつ俺のこと好きなのか』とか『今俺のこと見てたな』なんて思われているんだったら我慢できない。

私が下に見られているようで嫌だ。
立場的には下だけども。



「……やっぱり、理由教えてあげますね」

私は車を降りてすぐそう言った。


10歩だけ歩いて運転席を振り返る。


そして開いた窓目掛けてこう言うのだ。




私、土方さん嫌いです。



『土方さんが私だけのものにならないから。』




振り向いて歩き出すと、後ろでまたライターを落とす音がした。



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