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土方
*愛すべき男


もっと突き放して。

もっと冷たくしたらいいよ。







「土方さん、明日デートして下さい」

「仕事あるから無理」


予想通りの答え。書類に目を落としたまま、こっちを見もしない。
きっと、私が冷めないように急いで持ってきたお茶にも、しばらく手をつけないんだろう。

「今忙しいんだ、あっちいってろ」

猫や犬を追い払うように手を払われると、とうとう悲しくなってくる。

「冷たい………」

「知るかよ」

そう言いながら土方さんは煙草に手を伸ばす。
私は瞬間的に土方さんさんの手を遮ってその煙草を奪った。

一瞬、部屋に沈黙が訪れる。

「…何してんだ、返せ」
土方さんはニコチンが切れかかって、ご機嫌斜めのご様子だ。

「返しません」

そうだ、もっと怒れ。

「どういうつもりだ」

「煙草吸う暇はあるのに、私と目を見て話す時間はないんですか」

「いい加減にしろよ」

土方さんの眉間の皺がみるみる深まる。


そう、もっと怒りなさいよ。


「明日、デートして下さい」

「だから、無理だっつったろ」

「嫌です。どうにかして下さい」

「………」

土方さんは何も言わなくなった。また、さっきのように書類に目を向ける。

「土方さん」

「………」

「土方さんってば」



無視か。
言うことを聞かない私の態度に、怒りを通り越したのだろう。

いいよ。突き放せばいい。冷たくすればいいんだ。

「……もういいです」

私は持っていた煙草を土方さんに投げると、早足で部屋を出て行った。
土方さんは追いかける素振りも見せない。


でも、別にいいんだ。






その日の夜、私は自分の部屋でのんびりとしていた。私は住み込みで働いているので屯所内に部屋が割り当てられているのだ。

もちろん、土方さんとはあれから口をきいてない。
そりゃあ、私の態度に怒るのも分かる。でも私だっていつもあんな我が儘を言っているわけじゃない。
だって明日は私にとって特別だから。もし仕事でどうしても行けないのだとしても、ああやってスッパリ切ることはないだろう。


そうふてくされながらも、私は本当は期待せずにはいられない。



まだ寝るには早い時間だし、テレビでも見るか。
そう思ってリモコンに手を伸ばした時、ドアをノックする音がした。

「………」

それが誰なのかは分かっていた。だからあえて私は無言の返答をする。

すると再びノック音がしたあと、何の許可もなく扉が乱暴に開かれた。

そこに立っていたのは予想通りの人物。不機嫌そうな顔は昼間から変わらない。

「何ですか。勝手に開けないで下さい」

「お前が無視するからだ」

さっきは土方さんが無視したくせに。


「明日、朝10時な。用意しとけよ」

土方さんはそれだけ言うと、部屋を出ていこうとした。

「ちょっ…明日無理って……」

「仕事が早く片付いたんだよ」

「偶然な」なんて言いながら土方さんはドアを開ける。

私はすかさずその背中に飛びついた。衝撃で土方さんの体が少し揺れる。


もっと怒って、冷たくして、突き放したっていいよ。

どんなに怖くたって、土方さんは優しいんだから。私のこと、本当には突き放せないんだから。

今日忙しく仕事してたのもきっと明日のため。
私を追い出したのは不器用だから。

まぁ、なんて愛おしいんでしょう。




「良かった。私、明日誕生日なんですよ?」

そう私が言うと、土方さんは背を向けたままこう言った。表情は分からない。でもきっと、彼の顔は赤に染まっているだろう。

「そりゃ知らなかった」

不器用な彼に精一杯の愛情を。



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