9 「俺は。冬至に、兄さんの代わりになってもらいたいわけじゃない。」 「ぁ、」 「俺にはちゃんと兄さんがいるし、もう仲直りもした。もう兄さんはいらない。」 冬至の瞳が揺れる。 「だから。だから、冬至の本当を教えてほしい。」 「......さくら、ば」 口元がもごもごと動く。何か言葉を探しているのか、だけれどそれはなかなかでてこない。 「お、......おれは、」 「ごめん。もう行く。また後で聞くから。」 「は............?」 「早く会長を追いかけないと。」 「は、あ、ちょっ」 後ろから聞こえてくる声を無視して、ドアに走る。 ぶつかる勢いでそれを押しやって、冬至が走ってくる前に、ドアを思いっきり閉めた。 「おいっ! 桜庭っ! お前ほんとにっ。」 「そうだよ! 俺は会長が好きなんだ!」 あれこれ考えるのはもうやめる。 会長が泣いていた。 会長が泣いていたんだ。 あの日みた夢みたいに。 嫌われたって、避けられたって。俺はそんな会長を放ってはおけない。 「じゃあちゃんと考えといてよ!」 ドア越しにそう叫んで、右、左。 左右の廊下を確認する。 だが、やはり。もう会長の姿は見えない。 いったいどこへいったのか。 無難なところと言えば生徒会室だけど、あの会長があんな顔で生徒会室に行くだろうか。ここからは渡り廊下を使わないといけないし、誰かに見られる可能性もある。 となると、生徒会室より遠い寮はないだろうし。 それならば、一体どこに。 と。 「ぁっ。」 視界の端で、何かが揺れた。 さっき風紀室へ来るときに見た大きな木。 あれはなんの木だっただろうか。 もう花は散っていて。 「会長......。」 足を動かす。走りだす。 ここで考えていても仕方ない。 早く、早く見つけ出さなければ。 この手が届くならすぐに。 彼は、泣いていたのだから。 [*前へ][次へ#] [戻る] |