もうちょっとメイクビリーブ
*
「な、何見てるんですかっ!!」
東郷先輩がうちに来ておとなしくしてたことって一度もない。
いっつも隅々まで何があるのかチェックしてる。
なんのためかは知らないけどさ。
今日、東郷先輩が取り出していたのは俺の卒業アルバム。
しかも当然のように開いてる。
「なんで開いちゃうんですか……?」
「見たかったから」
……そんな即答されると、ハイそうですかってなっちゃうよ。
力の強い東郷先輩から取り上げられるわけないから、俺は黙って見せてあげることにした。
それでも、嫌だよなぁ…
中学時代の俺、今以上にダサいもん。
「……こんな制服だったんだな」
東郷先輩は学年の集合写真を見て呟く。
なんとなく「俺、どこにいるかわかりますか?」と尋ねてみたら、1秒も経たないうちに指さした。
「すごい!!なんでですか?」
「……すぐ見つかったけど」
俺そんな目立つとこにいるわけじゃないのに。
東郷先輩って……目が良いんだな。
「それより……こいつ誰」
「え?」
東郷先輩が指差したのは俺と肩を組んで写ってる男。
ユミっていう、俺の友達だった。
「あ、バレー部で一緒だった友達です。そうだ、一回ご…」
「……中谷?」
ご……合コンに誘ってくれた友達……なんて言ったら、俺かユミかもしくは両方殺される…
あの時の東郷先輩の怒りっぷりは相当だったからな…
「あー、はい。友達です」
「肩組んでんじゃねぇか」
肩くらい組むだろ、友達なんだから…
そう言ったけど東郷先輩は不機嫌そうな顔。
「……友達だろうとなんだろうと、肩なんて組むんじゃねぇよ」
そんなの今さら言われても。
「……あ」
東郷先輩がまた何かに反応していたので覗きこむと、部活ごとの集合写真のページだった。
「あぁ、俺バレー部だったんですよ」
「知ってる」
ん?と思ったけどすぐ思い出した。
東郷先輩と俺は中学時代、一回すれ違ったことがあるんだった。
俺は全く覚えてないけど、バレー部の練習試合だった……らしい。
「忘れたことなんてねぇ……このユニフォームも、お前の背番号も」
東郷先輩にそう言われて、不覚にもドキッとしてしまった。
誰かの記憶に残るような人間じゃないからな、俺…
「……東郷、先輩…」
「……中谷?」
何も言わずにじっと見つめていると、東郷先輩の顔が近づいてきた。ゆっくり目を閉じると、温かい唇が触れる。
「ん……ふ…」
いつもの激しいキスじゃなくて、ゆっくりとした深いキスだった。
まるで、なんていうか…
「……チカラ」
「……わかってます…」
『愛してる』って、言ってるみたいなキスだった。
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