もうちょっとメイクビリーブ * 「な、何見てるんですかっ!!」 東郷先輩がうちに来ておとなしくしてたことって一度もない。 いっつも隅々まで何があるのかチェックしてる。 なんのためかは知らないけどさ。 今日、東郷先輩が取り出していたのは俺の卒業アルバム。 しかも当然のように開いてる。 「なんで開いちゃうんですか……?」 「見たかったから」 ……そんな即答されると、ハイそうですかってなっちゃうよ。 力の強い東郷先輩から取り上げられるわけないから、俺は黙って見せてあげることにした。 それでも、嫌だよなぁ… 中学時代の俺、今以上にダサいもん。 「……こんな制服だったんだな」 東郷先輩は学年の集合写真を見て呟く。 なんとなく「俺、どこにいるかわかりますか?」と尋ねてみたら、1秒も経たないうちに指さした。 「すごい!!なんでですか?」 「……すぐ見つかったけど」 俺そんな目立つとこにいるわけじゃないのに。 東郷先輩って……目が良いんだな。 「それより……こいつ誰」 「え?」 東郷先輩が指差したのは俺と肩を組んで写ってる男。 ユミっていう、俺の友達だった。 「あ、バレー部で一緒だった友達です。そうだ、一回ご…」 「……中谷?」 ご……合コンに誘ってくれた友達……なんて言ったら、俺かユミかもしくは両方殺される… あの時の東郷先輩の怒りっぷりは相当だったからな… 「あー、はい。友達です」 「肩組んでんじゃねぇか」 肩くらい組むだろ、友達なんだから… そう言ったけど東郷先輩は不機嫌そうな顔。 「……友達だろうとなんだろうと、肩なんて組むんじゃねぇよ」 そんなの今さら言われても。 「……あ」 東郷先輩がまた何かに反応していたので覗きこむと、部活ごとの集合写真のページだった。 「あぁ、俺バレー部だったんですよ」 「知ってる」 ん?と思ったけどすぐ思い出した。 東郷先輩と俺は中学時代、一回すれ違ったことがあるんだった。 俺は全く覚えてないけど、バレー部の練習試合だった……らしい。 「忘れたことなんてねぇ……このユニフォームも、お前の背番号も」 東郷先輩にそう言われて、不覚にもドキッとしてしまった。 誰かの記憶に残るような人間じゃないからな、俺… 「……東郷、先輩…」 「……中谷?」 何も言わずにじっと見つめていると、東郷先輩の顔が近づいてきた。ゆっくり目を閉じると、温かい唇が触れる。 「ん……ふ…」 いつもの激しいキスじゃなくて、ゆっくりとした深いキスだった。 まるで、なんていうか… 「……チカラ」 「……わかってます…」 『愛してる』って、言ってるみたいなキスだった。 [次へ#] [戻る] |