君も詐欺師。
四
「う……嘘つくな!!tsuki.は女だ!!」
「tsuki.は女なんて一度も言ったことありません…」
……確かに、プロフィールには『女』なんて書いてないけど。
そういう問題じゃ…
「あ、アカリとか『裸足の恋』の春奈とか『しゃべろう!英語』のマリンとか…」
「本当によく観て下さってますね…」
何故か照れ笑いする眼鏡。
「……全部、女の役だし!!」
「そんなのよくあることですよ?」
「世間はみんな女だと思ってる!!」
「そもそも世間的に有名じゃないですけど……それは、ごめんなさい」
嘘だ…
tsuki.が男?ありえない!!
「俺の気を引こうと、嘘をついてるなら…」
「違います!!僕も今、ビックリしてるんです!!ずっと憧れてた千川先輩が、tsuki.のファンでいてくれてたなんて…」
お前なんかがtsuki.を名乗らないでくれ……!!
「……大体、お前なんていうんだよ?名前」
「えっ、昼休みに紹介したんですけど……月島絵空です」
……“つき”しま…
絶望の淵に立たされた俺に、月島が追い討ちをかけるようにいう。
「あっ、今日のアカリ見逃しちゃったんですよね!?えっと今日は、ユウスケくんと仲直りした後ライバルが登場して…」
「もう、いい…」
tsuki.が、男…
月島が不思議そうにこっちを見ている。俺は朦朧とする意識の中、やっと月島の元を去ることができた。
「あ、お兄ちゃん遅かったね?なんとかアイドルは観なくていいの?」
妹の声が遠く感じる。
そして、頭は真っ白なのに体は習慣的にDVDプレーヤーの再生ボタンを押していた。
『ミュージックアイドルアカリ!!今日もアカリと一緒に…』
アカリの声が、tsuki.が、男…
『ユウスケくんと仲直りできたと思ったら、この子もユウスケくんが好きみたい!!一体どうなっちゃうの?明日のミュージックアイドルアカリは…』
悲しいことに、今日のアカリの内容は月島の言った通りだった。
tsuki.がこんな身近にいたなんて…
またも反射的にパソコンを立ち上げて、SNSのファンページを確認する。
今日もtsuki.に称賛の声。
《tsuki.はうちの学校の生徒だった。しかもなんと、男…》
なんて書き込んでも意味がないからやらないが、信者を見てるともの悲しい!!
《今日改めて思ったけど、tsuki.は絶対美人だろ。声からわかる》
《美人だったら顔出すだろ。他にどういう事情があんだよ?》
書き込みを見て溜め息をついた。こういう事情だよって、言ってやりたい…
ふと思いついて、俺は初めて書き込みをしてみることにした。
自己紹介とかいらないよな、たぶん…
《もしtsuki.が身近にいたらどうする?》
俺の書き込みにはすぐ返事が来た。
《そういう妄想もtsuki.だからこそできるよな。とりあえず抱き締めたい》
《正直ブスだったら落ち込む》
《アカリ第五話再現してもらう》
いろいろ書くな。みんな…
《とりあえずエロい言葉言わせる。どんな外見だとしても、声のエロさは間違いない》
《あえぎ声聞かせてくださいって土下座》
……エロいこと、か。
確かに俺も、tsuki.のエロボイスは何度も妄想したな。
男相手に、なんてバカなことしてたんだろうか…
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