君も詐欺師。
三
そしてまた、放課後になる。
俺の頭の中はアカリ一色だ。
「千川先輩さようならー」
「じゃあなー千川」
今日も足早に校門に向かう。
しかし、ここでいつもと違うことが起きた。
「せ……千川先輩っ」
突然目の前に立ち塞がったのは、昼休みの眼鏡男だった。
「あぁ……悪いけど、俺急いでんだ」
「でも…」
相手は思ったよりしつこいらしい。
一回キツく言った方がいいのか?というか……アカリが始まってしまう!!
「迷惑なんだよ。近寄んな」
くらいのことを言おうとした、その時だった。
『アカリです!!電話が鳴ってるよ!!』
……しまった…
公式サイトで配信しているアカリの着ボイス!!マナーモードにするの忘れてた…
「……じゃあ」
内心頭が爆発しそうなくらい恥ずかしかったけど、何事もなかったかのように立ち去ろうとした。
「今の、ミュージックアイドルアカリですか?」
「……まぁ」
衝撃。
コイツもアカリを知っているのか。ますます恥ずかしくなってきた…
とにかくここから立ち去りたい。歩き出そうとする俺の裾を、眼鏡男が掴んだ。
何故だかさっきより相当必死な顔つきだ。
「アカリ、好きなんですか!?着ボイスにするなんて、結構なファン…」
「待っ……こ、こっち来い!!」
月島が大声を出すから、さすがに人目が気になってきた。俺は人気のない校舎裏に移動する。
仕方ないけど、今日のアカリは諦めるしかないようだ。
「……言うなよ」
低い声で威圧するように言うと、眼鏡男がキョトンとした。
「あ、アカリファンってことですか?」
「……あ、アニメが好きとか、ロリコンだとかいうわけじゃねぇからな。声優が好きなんだ!!それだけだ」
自分でもなんのフォローをしているのかわからなくなってきた。
「そういうことだから……付き合うとか、興味ねぇんだ。じゃあな」
今度こそ眼鏡男から立ち去ろうとすると、またもや引き留められた。
「だから…」
「あの!!……し、信じてもらえないかもしれませんけど…」
眼鏡男はそういうと、目を閉じて息を吸った。
「ねぇミケ、わたしもうユウスケくんに嫌われちゃったのかなぁ?」
えっ…
アカリ……?
「そうだよね!!わたし、歌の力を信じるよ!!」
男の声色が急に変わった。そしてその声は、紛れもないアカリの声だった。
そんなまさか。
「も……モノマネか?」
そう尋ねると、眼鏡男が慌ててかぶりを振る。
「違います……僕が、tsuki.なんです!!」
そんな……まさか。
俺が心から愛してやまない、青春の全てを捧げているtsuki.が…
男!?
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