君も詐欺師。 二 アカリ役の声優、その名前はtsuki.という。最近アニメで活躍している声優だ。 俺は一年前、たまたまテレビで彼女の声を聴いてからずっとファンをしている。 だからアニメや他の声優の知識はあまり無い。わかる範囲で言えば、tsuki.の人気はそれほどではないようだ。 その理由として、アカリなどの子供向けアニメに重きを置いていることや、顔出ししていないことが挙げられる。 『とんでもないブスだから顔出しNGなんだろ?』 なんていう声もあるみたいだが、俺はtsuki.は可愛いと信じているし、少し残念な顔立ちだって嫌わない覚悟をしてる。 なんせtsuki.の魅力はあの声なのだから!! 『あまり知られてないけど、tsuki.は隠れ実力派。声に色気があるから、エロゲとか出れば即売れるだろうに』 こんな声もある。そう、tsuki.の声はなんとなくエロい。アダルトものにはあまり出てほしくないが、tsuki.のエロい声を聴けたら俺は死んでもいいと思っている。 いや、こんなヨコシマな妄想、tsuki.に失礼だけど… とにかく「王子」なんて呼ばれようが、俺の青春はtsuki.に捧げることになるんだと思っていた。 そして、この想いは誰にもわかってもらえないと、ずっと思っていたのである。 「千川ー、お呼びだし」 「……誰が?」 そんなある日のこと、昼休みクラスメイトに話しかけられた。 「んーなんか知らん男。後輩っぽい」 「千川って男にもモテんの?」 「うわぁそれはキツいなー大丈夫か?千川ぁ」 クラスの男共が心配そうに声をかけてくる。俺はとりあえず廊下に出た。 すると、小柄で地味な眼鏡の男が立っていた。 「……誰だ?お前」 「あの、あの……あああのっ、僕はあの…」 何回『あの』を言うんだ、コイツは… なんて思っていたら、自己紹介を聞き逃した。まぁいいか… 「何の用?」 「あの……昨日は、ありがとうございましたっ」 「昨日?」 「ホラ、転んだところを助けてもらった…」 そう言われて合点がいった。昨日の放課後、校門で派手に転んだあの男だ。 そういや眼鏡だったな… 「別に、わざわざ礼なんて言わなくていい」 「……そうなんですけど……どうしても、お礼したくて…」 面倒な表情をされた。男から好意を持たれるのは初めてではないけど、どうも女より扱いにくい。 「あの、千川先輩、あのメアドを…」 「そういうの、めんどくせぇから」 男の表情に絶望の色が浮かんだ。 悪いけど、変に思わせ振りな態度をとる方が残酷だ。 俺はそのまま教室に戻った。 恋愛なんて、いつかできる日が来るんだろうか。 tsuki.みたいな女の子に、いつか出逢えたら… [*前へ][次へ#] [戻る] |