夢小説【イナイレ】
傷つくのが怖くて(基山ヒロト)
世界戦決勝前夜。
ミーティングが終わって、皆は宿舎のリビングのような部屋で思い思いに過ごしている。
明日の試合ヘ向けて、それぞれ気持ちをつくれればいいけど……彼らなら大丈夫かな。
私は少し夜風に当たりたくて、マネージャー仲間と別れ、宿舎の外に出た。
グラウンドへ下りて、いつも練習を見ているベンチに座る。
懐かしむように辺りを見回した。
「明日で最後か……長いようで短かった。」
明日の試合が終われば、イナズマジャパンのマネージャーとしての役目が終わる。
「ヒロトにもまた会えなくなるのかな……。」
そう思うと淋しい気持ちになった。
ヒロトのことは彼がエイリア学園にいた時から知っている。
雷門のマネージャーをしていたから。
最初は彼のこと、なんとも思っていなかった。
なのに同じチームとして戦っているうちに、いつの間にか惹かれている自分がいて……。
彼はとても優しくて、仲間思い。
もちろん私にも優しく接してくれる。
普段は大人っぽいところがあるけど、サッカーしている姿を見ると、やっぱり中学生なんだなって思ったり……。
敵同士だった時はわからなかったことが見えてくるたび、彼への想いは大きくなっていった。
仕事をしている時は意識しないようにしているけど……押さえ込もうとすればするほど、想いは加速する。
最近では仕事中以外では彼を避けるようになってしまった。
ドキドキしてしまって、まともに顔を合わせることも出来なくなってしまったから。
変に意識して嫌われるよりは、関わらないでいる方がいい。
淋しいけど、会うことが無くなれば気持ちも落ち着くだろう。
「はぁ……これでいいのかな……。」
小さくため息をついた。
すると……
「ため息なんてついてどうしたの?」
「き、基山くん!?」
突然背後から声をかけられたことと、声をかけた人物に同時にびっくりして、心臓が止まるかと思った。
え、なんでここにいるの?
さっきまで円堂くん達と楽しそうに話してたのに……。
「ん?あぁ……雪川さんが出ていくのが見えたから。」
絶句している私の疑問を読み取ったのか、当たり前のように答えた。
彼は"隣座っていい?"と聞いて、私が黙って肯定の意を示す。
ヒロトは私の隣に座った。
嗚呼もう……多分私の顔真っ赤だ。
心臓も破れてしまいそうなぐらい働いている。
夜でよかった。
「何か私に用……かな?」
「用っていうか……二人で少し話したかったんだ。」
この人はよくこういうことを言う。
私にとったら気も無いのに、思わせぶりなこと言わないでほしい……辛いだけだから。
「そう……。」
冷静を装うのは難しい。
私の中では、嬉しい気持ちと辛い気持ちがぐちゃぐちゃだ。
黙り込んだ私を見て、ヒロトは不安気な表情になった気が……する。
「雪川さん、最近俺のこと避けてるよね?思い当たるふしはないんだけど……俺、何かした?」
ズキリと心が痛む。
やっぱり気付いてたんだね。
あらかさまにはしてなかったはずなんだけど。
「別に基山くんが何をしたわけでもないから……気にしなくていいよ。」
「避けてることは否定しないのか……。それに呼び方も前は"ヒロト"って呼んでくれてたのに……俺、嫌われてるのかな……?」
避けているのは否定しない、というかできない。
事実だし……ね。
"ヒロト"って呼ばなくなったのは、何だか馴れ馴れしいような気がしたから。
他の人も苗字に"くん"付けで呼んでるから、その方がいいかなって。
「嫌ってるなんて、そんなことあるわけないよ。」
「……じゃあなんで避けるの?」
「それは……。」
ヒロトからの視線が痛い。
ずるいよ……。
言える訳無いのに。
「……ごめん、明日早いから私宿舎に帰るね。」
私はその場から早く逃げ出したくて、立ち上がってそのまま駆け足で宿舎に向かう。
「理緒!!」
後ろから名前を叫ばれ、びくっと立ち止まった。
そうやって私を引き付けるんだ。
「なんで逃げるんだよっ……俺は理緒と向き合おうとしてるのに……。」
迷惑だよ……。
放っておいてほしいんだから……。
「なんで?どうして?……私は別に基山くんのこと、嫌ってなんかいないし、苗字で呼ぶのは皆も同じ……それでいいんじゃないの?納得してよ……。」
声が震えてる……全身に力を入れてないと、涙が溢れ出てきそう。
「納得出来ないし、いいわけないだろ……。」
聞こえてきた声はどこか辛そうだった。
「一目惚れした人と、やっと仲良くなれたと思ったら避けられて……。嫌われているなら仕方ない。だけど……そうじゃないのになんで避けられないといけないんだよ……。納得出来るわけないだろ。」
「え?」
ヒロト?
「理緒のこと、好きなんだ。」
耳を疑う言葉。
だけど、ゆっくり私の身体に染み渡っていった。
張り詰めていた何かが切れて涙が溢れ出す。
「えっ!?理緒、泣いてるの!?大丈夫!?」
いきなり泣き出してしまった私に驚いてヒロトが駆け寄って来てくれた。
「……ごめん、ヒロト。そんなふうに思ってくれていたなんて……ごめんね……。」
「理緒?」
「私もヒロトのこと、好きだった……でも気になりだしてからどうしたらいいかわからなくなって……。」
私の言葉をただ黙って彼は聞いてくれる。
優しい眼差しで……。
「結果ヒロトのこと、傷つけてしまって……大好きなのにっ……私……。」
ふと背中に感じる温もり。
「もういいよ……。」
心に響く声。
やわらかな風が吹き抜ける。
「大好きだ、理緒……。」
「私も…………好き。」
「ん?何?聞こえなかった。」
意地悪そうなヒロトの笑み。
「私もヒロトのことが好き。」
「……ありがとう。」
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