奴の半分は砂糖でできている(結城)


今日は、ホワイトデー。


昨日、彼氏である哲也に
一ヶ月前に渡したバレンタインチョコのお礼を忘れないようにしつこく念を押して

さて何をもらえるかな、とウキウキで登校してきたというのに、



この状況はなんなのだろうか。




「―…哲、何してるの?」


ポッキーの端をくわえて、それを私へと向けるコイツに聞くと

「チョコのお返しだ」

と、結城哲也。


いや、お返しって……。

ポッキーなら分かるけど、それを哲がくわえて私に向ける意味がわからん。

なにこれ。
私にどうしろって言うの?
あれか?
ポッキーゲーム的なあれか?
端と端を食べていって最終的にチューみたいな?
なるほど!二度おいしい!!


「…ってアホかぁぁ!!!」


机をバンッと叩いて立ち上がる。
関西人にも負けないノリツッコミを見せる私を、哲は不思議そうにポッキーをくわえながら見上げていた。

てかいい加減ポッキーをなんとかしろ!!
そんな顔で見上げるな!
ちょっと可愛いじゃんか!!



「…どうした?そら。
顔がタコさんウィンナー並みに赤いぞ」

「……」


比喩表現がおかしいのはいつものことなのでスルーした。

が、
どうして哲がそんな行動にでたのかはスルーできない。

なにしろ、まだ初チューも済ませてないってのに、いきなり、こんな、恥ずかしいこと……
しかも、教室で…
…で、できるわけないじゃん!


「―私、そーゆうのしないからね!」

目は合わせられないまま、はっきりと言うと

「?何をだ?」

って。
聞き返すなよ天然。


「だから、その、ポッキーゲームよ!……初チューは、大事にしたいし…」

「ポッキーゲーム?…チュー?」

『チュー』とか、言い慣れないワードに恥ずかしさを感じながらも自分の気持ちを伝えたのに、
哲の頭には無数のハテナマーク。

あれ?何この温度差。
もしかして、なんのことだか分かってない?


「ちょ、ちょっと待って」

「?」

「あのさ、哲。一応聞くけど、……哲は何の意図でポッキーをくわえているの?」

「意図?」

うーん、と考える素振りをみせる哲。

そして、一息おいてこう答えた。

「いや、よく分からんが…

こうすればそらが喜ぶと
亮介に聞いたのでな」

と。

「……りょ、」


( ア イ ツ か …!!)


私は即座にそいつの席へ睨むように目を向けたが、当の裏犯人は本で顔を隠しており、多分、笑っていた。


亮介め。
哲が天然なことを利用しやがってコノヤロウ。

どうりでだよ。
哲はこんなことするようなヤツじゃないもん。
あーまんまと亮介の策略にはまって馬鹿みたい。

さっきまでの私はなんだったの?
一人で勝手に意識しちゃって

めっちゃ恥ずかしいんすけど。
どうしてくれるのこれ。


穴があったら入りたい気分に浸っていると、哲が私の表情をじっと伺っていた。いや、なんすか?

「大変だ」
「なにが」
「そらの顔が火事になってるぞ」
「…」

タコさんウインナーの次は火事ですか。
それほど私の顔は真っ赤に大炎上しているってことですね。

でもね、哲くん。放火犯人は君なんだよ?
分かってないだろうけどさ。


「そら?」
「…哲のせいだよ」
「む、俺か」
「そうだよ」
「そうか。悪かった」

意味分かってないくせに、すぐに謝るなんて
変に素直とゆーか。
そんなとこも愛しく思えちゃうんだよね。まったく。


「ってか、いつの間にかポッキー食べ終わってるのね」

口にほんのりチョコをつけた哲を指摘すると

口に手をやり
「……しまった」って。

え、無意識だったの?
喋ってたら知らないうちに食べちゃってた感じなの?


「―すまない。じゃあもう一回…」
「いい。しなくていい。哲がポッキーくわえてるの見てても私なんも得しないし嬉しくないし」

ポッキーのスタンバイをしようとした哲を素早く止めた。

「そうか…」と、少し残念そうな顔の哲は

「じゃあ、これはどうだ?」

と。そう言って取り出したのは、パンダちゃんのホワイトチョコクッキーだ。


「なにこれ!可愛い!!」

パンダ大好きな私はすぐに食いついた。

「そらが喜びそうだと思って買ってきた」

「私にくれるの!?」

目を輝かせる私に、哲はこくっと頷いた。
うわ、めっちゃ嬉しいな。


「これでお返しになるか?」

ちょっぴり不安そうに聞く哲に
私はとびきりの笑顔を向けた。

「うん!すっごく嬉しい!!ありがとう」

幸せいっぱいにお礼を言う。

あぁでもほんと嬉しい。
にやけが止まらない。

「もったいなくて食べれないなぁ」なんて笑っていると、

ふっと哲の顔が緩んだと思ったら
急に、私の頭を優しく撫でた。




「…て、哲?」

「……そらは、可愛いな」



時が止まったかのように。

心地よく触れる哲の大きな手と、
どんどん大きくなっていく私の鼓動だけを感じた。





奴の半分は砂糖でできている




*title:おやすみパンチ

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