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約の翼
絶対に諦めない
「ラケシス、隠してたでしょう?」

それがノルンの第一声だった。王都から帰って来た彼女は何故か《学園》の制服姿で、ラケシスは驚いて声も出ない。ぱちぱちと目をしばたかせ、じっとノルンを見つめている。

「……シグのこと」

ラケシスを責めるつもりはなかったが、どうしてもそんな口調になってしまう。彼女は“死”を視ることが出来る魔眼の持ち主である。
シグフェルズが受けた呪いは咎の烙印。つまりは死の呪い。

魔眼の持ち主であるラケシスが気付かぬはずがない。
ということは、彼女は自分に隠していたのだ。

「す、すみません。シグフェルズさんに口止めされてたんです」

じっと見つめられて居心地が悪くなったのか、ラケシスは泣きそうな顔になって謝った。よほど自分の形相が怖かったのだろう。
これではノルンがいじめているようである。

クロト辺りが見たら罵声を浴びせかけられそうだ。ノルンはラケシスに気付かれないよう、こっそりとため息をついてルームメイトを見る。
怒っている訳ではないことをどう伝えればいいのか。だが今は何を言っても無駄な気がした。

「ノルンさんには知られたく……ないって。だから、わたし……。ごめんなさい」

「謝らないで。ラケシスを責めてる訳じゃない。私は自分が情けないだけ。シグのこと、もっと早く気づけてたらって……」

眼帯をしていない方のラケシスの瞳から涙が溢れる。つい彼女にあたってしまったが、ノルンが許せないのはシグフェルズでもラケシスでもハロルドでもない。
シグフェルズの異変に気付きながらも、何もしなかった自分自身だ。

「私は諦めない。例え誰が諦めても。シグを助けてみせる」

内に秘めた決意を語るようにノルンは言った。約束したのだ。シグを一人にしないと。誰もが諦めてもノルンは絶対に諦めない。
あるいはラケシスに言った、というより独り言に近いものなのかもしれない。

「……やっぱりノルンさんは凄いです」

ラケシスは指で涙を拭いながら、尊敬するような眼差しでノルンを見つめていた。敵わないなと思う。
もし呪いを受けたのがクロトで、自分がノルンと同じ立場でも、ラケシスは彼女のようには言えなかっただろう。

「何かお手伝いすることがあれば遠慮なく言ってください」

「……ありがとう」

自分の手を取り、柔らかく微笑むラケシスを見て、ノルンも表情を笑って礼を言った。



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