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約の翼
万能ではない力
「ごめんね、お嬢さん。この二人、ちょっと借りるね。二人とも、こっちに」

「分かったわ。アイリス、また後で」

「うん! またね、お姉ちゃんたち」

 表情が険しいと思ったのは一瞬で、すぐにハロルドはアイリスに微笑みかけた。恐らくは村人たちには聞かせられない話なのだろう。ノルンとシグフェルズはハロルドに連れられ、別室へと移動する。そこにはヴィオラもおり、村人たちのカルテを読んでいるようだった。ただ、彼の表情も穏やかとは言い難い。やはり何か問題があったのだろうか。
 さて、と二人の方を向き直ったハロルドは一転して真剣な表情を浮かべる。いつも余裕のある彼にしては珍しい。ノルンもつい背筋が伸びる。気を引き締めなければ。

「……何かあったの?」

「魔法医療師の彼から聞いた話とカルテを見せて貰った結果についてね。村人たちの病状って言うのも変だけど、あまり良くない」

「良くないとは具体的にどうなのですか?」

 話を聞きながら、村人たちの様子はひと通り目にした。見た限り、それほど重症な者はいないようだったが、二人の表情を見る限り何かあるのは確かだ。ハロルドに代わり、口を開いたのはヴィオラ。

「動かないのは石になりかけているから。このまま放っておくと、全員石像だろう」

「……石!? 体が動かないのは、石化が始まってるから?」

 カルテから顔を上げたヴィオラは淡々と言う。つまり、体が動かないのは石化が始まっているからだと言うのか。ノルンが見た中で肌に異常がある者はいなかったが、それが本当なら石化が始まるのも時間の問題かもしれない。悪魔の中には特殊な力を持つ者がいる。どんな能力であってもおかしくはないのだが、驚いてしまうのは事実で。
 悪魔は苦しむ村人たちを嘲笑っているのだろうか。そう思うと、腸が煮え繰り返る思いだった。

「僕たちの力でどうにかすることは出来ませんか?」

「残念だけど、今回は元を絶たないとどうにも出来ない。オレたちの力は決して万能じゃないしね。ただの魔素なら浄化出来るんだけど」

「悔しい……」

 聖人の力は悪魔に対して絶対的な優位となり得る。しかし、現実は必ずしもそう上手くはいかない。咎の烙印のように、悪魔固有の能力は時に聖人の奇跡でも完全に浄化出来ない。そのような能力なのだ。今回の場合は、原因である悪魔を消滅させなければ、村人たちを助けることが出来ない。せいぜい出来ても進行を遅らせることぐらいか。



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