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約の翼
求められる覚悟
「気持ちは分かるけど、焦っちゃ駄目だよ。急いては事を仕損じる。急がなきゃいけないからこそ、焦ってはいけない。見落としがあるとまずいからね。ノルンちゃん、シグ。今回は村の人たちの命がかかってる。命はとても重いだろうし、不安になるとも思う。でも、悪魔祓いとなるなら、誰もが経験することなんだ」

「俺であれ、ハロルドであれ、だ。相手が悪魔だからこそ慎重にならなきゃいけねえだろ。かかってるのは自分一人の命じゃねえ。その覚悟がないなら、悪魔祓いを目指すのは止めろ」

 村人たちを助けたいと思うのは皆同じなのだろう。優しく諭すようなハロルドとは対照的に、ヴィオラは辛辣だ。それはノルンだけではなく、シグフェルズにも向けられた言葉。相手が悪魔だからこそ、慎重にならなければいけない。もし相手が大悪魔と称されるほどの悪魔なら、下手に刺激しては不味いし、下手をすれば村人全員の命が危険に晒される。
 ノルンが今まで受けた特別授業の中に誰かの命がかかったものはなかった。けれど、悪魔祓いとなるからには、多少の違いはあれど誰もが経験することだとも言える。

「……分かってるわ。覚悟はある。でも、覚悟がなくたって私は、私たちは悪魔祓いにならざるを得ない。逃げることなんて許されないのだから。命尽きるまで悪魔と戦い続けなければいけない。今はもうそれを恨んだりはしないけれど」

 何が言いたかったのかノルン自身にも分からない。ヴィオラを責めたい訳ではなかった。思わず口を突いて出てしまった言葉。悪魔祓いとなる覚悟はある。昔は命尽きるまで悪魔と戦い続ける運命を受け入れることは出来なかったが。
 例え覚悟がなくとも、聖人である限り、その運命から逃れられない。聖人ではなくとも、悪魔と戦い続けることで心を壊してしまう者も少なからずいる。ハロルドも、そしてシグフェルズも命尽きるまで悪魔と戦うことを宿命付けられているのだ。
 ヴィオラは何も言わなかった。ハロルドやシグフェルズも。覚悟を決めたとは言え、恐ろしいものは恐ろしい。いつか悪魔との戦いの中で命を落とすかもしれない。だが、それを彼にぶつけた所で仕方がないのも分かっている。心を落ち着かせ、息を吐き出した。

「……ごめんなさい。ヴィオラを責めたい訳じゃないの」

「いや、俺も少し言い過ぎた」

 謝れば、ヴィオラはゆっくりと首を振る。彼の深い青の瞳は僅かに揺れていた。ハロルドによると、ヴィオラは悪魔祓いでありながら、他の命を与えられていたのかもしれないと。ノルンが知らないだけで彼もまた自分たちと違うものを背負っているのかもしれない。そんな中、重苦しい空気を打ち消すようにハロルドが明るい声を上げた。

「ヴィオラは素直じゃないからねえ。これでも、ノルンちゃんを心配してるんだと思うよ」



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あきゅろす。
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