誓約の翼
情報の重要性
村人たちに会うには、魔術を使い、消毒を済ませてから入らねばならなかったが、それを制したのはハロルドだった。教戒に足を踏み入れた途端、彼は零したのだ。微かだけど、魔の気配を感じる、と。
村人たちは一箇所に集められているよう。ベッドに寝かされた者たちは年齢も性別も様々だ。幼い少女もいれば老人や若い男性まで。手が動かない者から足が動かしづらいなど、症状にもばらつきがあるよう。
その時、老人の脈を取っていた聖職者が立ち上がった。先ほど、村長宅まで案内してくれたあの聖職者である。
「ファース司教。いらっしゃったのですね」
「どうやら、君たちの推測は正しかったみたいだ。これは流行病じゃない。悪いけど、カルテを見せてくれる? 全員の症状を把握したいからね」
ハロルドは聖職者に手招きをし、そっと耳打ちした。青年は神妙な面持ちで頷き、こちらです、と促す。村人の病状を把握することは重要だ。
黙ったままのヴィオラだったが、ハロルドに、はいはーい、と引っ張られて連行される。残される形になる自分たちはどうすればいいのだろう。勝手な行動は許されない。慌ててハロルドを呼び止める。
「ハロルド、私たちはどうすれば?」
「皆さんから話を聞いてくれる? こっちが済めばすぐに合流するから、気になったことがあれば、後で教えてねー」
「おい、引っ張るんじゃねえ」
あくまでも軽い調子で返した彼は、ヴィオラの抗議の声など聞いちゃあいない。聖職者の案内のもと、彼らは奥へと消えて行った。
情報はある意味では力にさえ勝る。悪魔を探るためにも情報収集は必至と言えるだろう。何か手がかりが掴めるかもしれない。
「それじゃあ、ノルン。君は向こう側からお願い出来る?」
「分かったわ」
二人は別れて村人たちから話を聞くことになった。シェイアードの者ではない限り、悪魔祓いを目にする機会はそう多くない。しかし、ノルンたちの纏う衣装が魔法医療師と似ていることには気づくはず。つまり、自分たちが聖職者であることは首から下げた十字架と聖衣から分かる。
ノルンはまず四十代ほどの女性に話を聞いた。丁寧に自己紹介をして、教戒から派遣された聖職者だと言う。悪魔の仕業であることはまだ告げない。
その女性を始めとして何人かに話を聞いたが、これといった収穫はなさそうだ。礼を言い、立ち上がった瞬間、目に留まった一人の少女。ベッドの中で退屈そうにしているのは、まだ幼い、十歳前後の少女だった。
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