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約の翼
降り続く雨
 しとしとと降り続く雨は、村人たちの悲しみを表しているようだ。空は分厚い灰色の雲に覆われ、一筋の光さえ見えない。ぬかるんだ地面に叩きつけられる雨粒が泥を跳ね上げる。ノルンは跳ねた泥など気にせず歩き続けていた。まだ聖衣が白でなかっただけ幸いか。傘を差し、歩く黒尽くめの四人はさぞ目立っていることだろう。
 先程から誰ともすれ違わないのは、流行病のせいだ。実際、悪魔の仕業である可能性が高いが、まだそうと決まったわけではない。あくまで可能性の一つだ。

「本当に誰ともすれ違わないのね」

「流行病のせいだと思うよ。オレたちにすれば好都合だけどね。巻き込む危険があるから。アルゼンタム村はすぐそこだよ」

 きちんと整備された街道の先、そこがアルゼンタム村なのだろう。ノルンたちが教戒を出て、まだ半日も経っていない。こんなにも早く到着出来たのは、移動手段が徒歩ではなく、精霊だったからだ。早く村に到着し、病の原因を突き止めなければならない。
 人々を悪魔との戦いに巻き込む訳にはいかないから、人気がないのは好都合と言えるだろう。こうして普通に会話してはいても、ハロルドは周囲を警戒している。それは先ほどから黙ったままのヴィオラも同じはず。

「悪魔の気配は……しませんね」

「こういうのは大体、二つなんだよね」

「力を完全に隠せるほどの大物か、或いはとても弱い力の雑魚か、だ」

 聖人の力の覚醒すれば、感覚が鋭くなる。悪魔の存在を感じる事が出来るのだ。しかし、悪魔の気配は感じない。ハロルドの言葉を継いで口を開いたのはヴィオラ。つまり、二つのパターンがある。力を感じることが出来ないのは、力を完全に隠せるほどの高位の悪魔か、ごく僅かな力しか持たない下級悪魔のどちらか。
 ノルンたちが以前戦ったローテローゼのように悪魔の中には特殊な力を持つ者がいる。力自体、強くなくとも厄介な場合があるのだ。

「ただ歩きながら喋ってる訳じゃない。ちゃんと分かってるわ。悪魔の恐ろしさは」

「うん、分かってるよ。ノルンちゃんは賢いから。警戒して欲しいのは本当だけど、それ以上に怖がりすぎても駄目だから」

 ベリアルと相対するまで、ノルンは本当の悪魔の恐ろしさを理解していなかった。ベリアルは本気になれば、人間を殺すことなど造作もないのだろう。
 だが、ハロルドは言う。恐れるばかりではいけないと。言われずとも分かっているのだ。それでは悪魔と戦えない。



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