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約の翼
こんな時だからこそ
「しかし、このままではシグの体は……」

声を荒らげそうになってハロルドは口をつぐむ。聖人でも、ましてや魔導師でもない彼の体は聖と魔の力に耐え切れないのだろう。
多少、魔への耐性があるとは言え、シグフェルズは普通の人間だ。

咎の烙印は魔力が高ければ高いほど、悪魔の力と反発して進行が早まるというが……。
シグフェルズは全く魔力を持っていない。それなのにこの進行の早さは何だ。

「ハロルド、貴方の気持ちはわかります。弟のような存在なのでしょう? 申し訳ありません。私の、私たちの力ではあの子を救ってやれない。魔界には私やラファエルの力も及びません。それに加え、ベリアルは契約者との繋がりを完全に絶っています。魔力を辿ることも出来ないでしょう」

ミシェルは憂いを帯びた表情で顔を伏せた。ミシェルやラファエルの力を持ってしても彼は救えない。自分たちとて万能ではないのだ。
ベリアルは間違いなく地獄にいる。

しかしあの世界には誰の力も及ばない。創世の女神アルトナ以外は。何故なら魔界は魔王ルシファーの庇護下にある。何人足りとも足を踏み入れることは叶わない。
女神の使徒である天使でさえ。

加えてベリアルは契約者との繋がりを完全に絶っていた。ベリアルを介して契約者を見つけることは出来ない。
咎の烙印を受けた者と呪いを掛けた者――今回の場合はシグフェルズの兄だが――は細い魔力の糸で繋がっている。しかしベリアルが契約者との繋がりを絶っていれば、その糸を辿ることも出来ない。
何故なら、力の源はベリアルだから。

「取り乱してはいけない。彼ならまだ大丈夫だ」

「……申し訳ありません」

ハロルドを落ち着かせるようにゆっくりと紡がれたアルノルドの言葉。我に返ったハロルドは静かに頭を下げる。
アルノルドの言うようにこんな時だからこそ、取り乱してはならない。

冷静であるべきだ。自分がまだ未熟であることを痛感させられる。
冷静でいられないのはシグフェルズが己の教え子であると同時に、弟のような存在だから。

「ハロルドは彼の様子に気をつけて欲しい。何かあればすぐに報告を。講義はこれまで通り、彼の自由に。だが無理をしているようなら欠席させるように。ミシェルとラファエルは引き続き、契約者の居所を」

「御意に」

即座に考えを纏め、指示を出すアルノルドにハロルドとミシェル、ラファエルは頭を垂れた。



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