[携帯モード] [URL送信]

約の翼
いつだって大真面目
シグフェルズの体調は確実に悪くなっている。講義には休まず出席しているが顔色は悪いし、上の空だ。これは後から聞いたことだが、咎の烙印についてラケシスだけでなく、クロトも知ってしまったらしい。
彼が持つ特殊な力によるものらしいが、ノルンにとっては正直ありがたかった。

自分一人ではどうしていいか分からずに戸惑っていたはず。ハロルドやミシェルも気にかけてくれて、時折シグフェルズの様子を見に来る。
依然、シグフェルズの兄についての手掛かりはないらしい。

ベリアルの方は間違いなく地獄にいるようだが、手が出せるはずもない。だがベリアルは必ず、シグフェルズの前に姿を現すだろうとの確信がノルンにはあった。

短い間、相対しただけだが、戦ってみて分かったことがある。ベリアルは誰よりも悪魔という響きがよく似合う。
あれほど人を惑わせ、堕とす“悪魔”をノルンは知らない。

ノルンは隣を歩くシグフェルズをうかがうように見る。体調のこともあってここ最近、ハロルドによる特別授業の再開のめどがたたないままで、どこか不満そうだ。

「ねえ、シグ。大丈夫?」

「大丈夫だよ。ノルンは大袈裟なんだから」

「本当に? 手だってこんなに冷たいじゃない」

大丈夫だとシグフェルズは笑う。だが触れた手は氷のように冷たかった。とても生きている人間の体温とは思えない。
ハロルドによるとこれも、咎の烙印の影響らしい。

あまり気にかけすぎるのも悪いとは思っている。だが心配なのだ。
ノルンが本気で心配するとシグは何故か柔らかい笑みを作った。

「じゃあ、ノルンがあたためて。こうやって」

言うなりシグフェルズは、ノルンの手を取って繋ぐ。やはりその手はひんやりと冷たい。自分の手の暖かさがやけに感じられて意味もなく恥ずかしくなった。
どうしてシグフェルズは、平然とこんなことが出来るのだろう。ノルンには全く理解出来ない。

「ふ、ふざけてる?」

「まさか。僕はいつだって真面目だけど?」

人通りは多くないが、零ではない。誰かに見られるかもしれないというのに、シグフェルズは手を離してくれなかった。ノルンは正面から彼の顔を見ることが出来ずに俯く。シグフェルズにすれば手を繋ぐことなど何とも思わないかもしれない。
だがノルンは違う。いたたまれない。今すぐ逃げ出したい。なのに出来なかった。この手を振りほどいて逃げるなんて。



[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!