誓約の翼
無力な自分
ラケシスとクロトが医務室を出た後、ベッドに横になり、ノルンは考えていた。
ハロルドに言われたことがまだ頭から離れない。無力な子供。その通りだ。
自分は無力な子供でしかない。あの時、ベリアルとの間にゴモリーが割って入らなければ間違いなく死んでいただろう。少しは強くなったつもりだった。だがそんなもの高位の悪魔には意味がない。赤子同然だ。
「……情けない」
何が悪魔祓いに一番近いだ、何が聖人だ。自分は何一つ出来なかった。悪魔を退けることも、シグフェルズを助けることも。
情けなくて、悔しくてノルンはぐっと手を握りしめた。
隣のベッドで眠るシグフェルズは目を覚ます気配はない。よほど深く眠っているのだろうか。
強くなりたい。自分のためではなく、誰かのために。
今まではただ何となく授業をこなしているだけで、努力も殆どしなかった。
だがそれでも彼女が悪魔祓い一番近いと言われるのはその類い稀なる才能故にだ。
しかしそんなものだけに頼っていた自分を叱咤したい気分だった。
自分がもっと強ければあんな目に合わなかったかもしれない。
ラケシスやクロトを巻き込むこともなかったかもしれない。
全て考えすぎかもしれない、だがそれでも悔やまれてならないのだ。
しかしハロルドはそれ以上、ノルンを責めなかった。
本来なら処罰の対象になるというのに。悔しいが認めなければならない。ハロルドという人物を。
ノルンはラケシスやクロトに彼を教戒の狗と称したが、決してそれだけではないことを彼女は知っている。
ああ見えて情にあついのだ、ハロルドは。だから悔しい。あれが大人の余裕というやつか。
どんなに背伸びしても自分はまだ子供なのだ。ベリアルとの死闘を思い出せば、体が小刻みに震える。今頃震えが来るなんて情けない。けれど……恐ろしかった。ベリアルという存在が。
ベリアルは人間を何とも思っていないのだ。虫けらほどにしか。
自分がどれほど無茶をしたのか、突き付けられているような気がしてノルンは自嘲するように笑った。
「馬鹿みたい」
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