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約の翼
不確かな存在
どうすればいいかなんて分からない。相談できる相手もいない。
今までのノルンなら、他人に干渉することをよしとしない自分なら、関わろうとも思わなかっただろう。

だが今の自分は過去のノルン・アルレーゼとは違う。
シグフェルズが教えてくれたのだ。家族でもなんでもない他人を思う心。

どうして自分一人で抱え込もうとするのだろう。確かに自分は他人だ。だがそれならば最初から話さなければよかったのだ。
兄のことも両親のことも。聞いた以上、知らないふりをして日常に戻るなんて出来はしないのだから。

握り締めた写真立ての中では色あせる事ない家族が微笑んでいる。
仲の良い二人の兄弟と肩を組む両親。

シグフェルズにとっては永遠に失われた、ノルンにはもう手に入らないあたたかなもの。
たった一人残った家族を助けたいと思うのは当然だろう。

写真立てを戸棚の上に戻し、ノルンは立ち上がる。もしかしたら彼は、シグフェルズは差し違えても兄を助けるつもりなのかもしれない。
いつも以上に整理された部屋をみるとどうしてもそう思えてしまう。

杞憂ならいい。だが杞憂だと言える理由などどこにもないのだ。

「……本当に馬鹿。一人じゃ勝てないことくらい、分かりきってるのに」

自分を連れていけば良かったのだ。悪魔に対して絶対的な力を有する聖人である私を。
シグフェルズの兄と契約した悪魔はこの間、相対した悪魔と同く、高位に属するもの。

いくらバクルスを操る才を持つ彼と言えど魔術も使えない人間が契約者に勝てるはずがない。
人間が酸素を必要とするのと同じくらい、それは絶対的な理なのだ。

「お、おい、一体どうしたんだよ……」

「何でもないわ」

怯えたように尋ねる少年にノルンは首を振り、部屋を出る。早くシグフェルズに追い付かなければ。だがどうやって?
どこに行ったかも分からないのに。

ノルンは自分の迂闊さを呪いたくなった。シグフェルズの様子がおかしい事に気づいていたのに、まさか一人で教戒を出るとは……。
だが今、それを悔やんでも現状は変わらない。

ノルンは胸から下げた十字架を握りしめる。もし本当に神がいるのなら、何故世界はこんなにも不条理なのだ。
シグフェルズは兄の手で両親を失い、優しかった兄さえも失った。

女神に祈ったって何も変わらない。餓えは満たされないし、強者が弱者を虐げる現実も変わらない。だから私は神なんて信じない。そんな不確かな存在(もの)は。



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