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約の翼
力の使い道
問題はシグフェルズの行方だ。ノルンには全く見当がつかない。ルームメイトの少年が言っていた故郷の墓参りというのもシグフェルズの嘘だろう。
わざわざ本当の事をいう理由がないからだ。

このままではシグフェルズは死ぬだろう。大袈裟ではない事実だ。ただの人間が高位の悪魔に勝てるはずがない。死に行くようなものだ。
……あるいは本当に彼は兄に殺されるつもりなのか。

分からない。ノルンには今のシグフェルズの気持ちなんて分からなかった。
昔の自分なら違う人間なんだから当たり前だと笑い飛ばしていただろうが、笑い事では済まない。

自分が思う以上に焦っていたのか、ノルンはぶつかるその時まで誰かの存在に気付かなかった。

「きゃっ!」

耳に入った声に我に返り、慌てて声の主の手を掴んだかと思えば、怯えたような声が返って来た。

「ご、ごめんなさい!」

顔を上げてみれば、そこにいたのは薄紅色の髪に黄玉の瞳、愛らしい顔には不似合いな眼帯を付けた少女――ラケシスだった。
この間からどうも彼女と縁があるらしい。そんな事よりシグフェルズをどうにかして探さなければ……。

「あ、あの……どうかしたんですか?」

「何でもない。……それに貴女には関係ないし」

そう、彼女には関係ないのだ。だから早く行かなければ。だが身を翻したノルンの手を彼女が掴んだ。
そしてそれはラケシス自身も驚いたようで、自分の手とノルンの顔を交互に見つめる。

「離してくれる?」

「は、離しません。何を焦っているのか教えてくれたら……離します」

真っ直ぐに見つめてくるラケシスにノルンは驚いていた。
ノルンから見れば彼女は気弱で、自分の気持ちすら満足に伝えられない少女である。

なのに今のラケシスに怯えの色はない。それとも恐怖に代わる何かが彼女を突き動かしているのか。

「シグの、シグフェルズの行方を探してる。でもこれ以上は話せない。彼の命に関わることだから」

何故話す気になったのか、ノルンにも分からない。ただ、そうしなければいけない気がしたのだ。
するとラケシスは眼帯に手を当て、静かに言った。

「……わたしなら多分、シグフェルズさんの行方を知ることが出来ます」

怖がるな、大丈夫だと言い聞かせてラケシスは眼帯に手を当てた。この力を使うことで誰かを助けられるのなら、喜んで使おう。



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あきゅろす。
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