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短編
−A


外でぽつぽつと話している人の話に、こっそりと聞き耳を立てる。
どうやら僕は、トラックに轢かれて死んだらしい。
相手は飲酒運転。と、いうことは、保険が下りる。これは嬉しいぞ。
なんとか弟妹たちには、学校を卒業してもらいたいと思う。その足しにしてほしい。

空に長く細く、煙が立ち上る。
自分の体が焼かれているのに、熱くも何ともないのが不思議だ。
四十九日たてば、僕もあの煙のように空に昇って行けるのだろうか。
わざわざ僕の葬式に参加してくれた数少ない友人達とともに、肩を並べて立ち上っていく煙を見つめた。
友人は少なかったけれど、ゼロってことはなくてうれしい。
みんな、目を真っ赤にはらしている。なんだか、とても申し訳なくなった。

ぞろぞろと火葬場から人が出てきた。
その中には、弟妹たち全員がそろっていて。
久しぶりに全員がそろったんじゃないか?全員がそろっている姿を見れたのは、嬉しい。
てんでバラバラのところに散ってしまった兄弟たちだったけれど、絆を断たずに仲良くして行ってほしいとおもう。
中々会えないと嘆く弟妹たちが集まるきっかけになれたのだと思うと、こんな自分の状況も報われるなぁ、と嬉しく思った。
泣く妹、慰める妹、怒る弟、呆然と空を見上げる弟。反応は様々。
僕がいなくとも、もう生きていける強い子たちだ。
全員がそろっている姿を見て、なんだか安心した。


弟妹たちの次に出てきたのは、誰よりもきれいな、あの人だった。
幽霊になったって、胸はときめく。
大好きな、あの人。

なんだか久しぶりに見た気がするその綺麗な顔は、全く表情が抜け落ちていた。

体調でも悪いんだろうか。なんだか、酷く顔色が悪い。
あまり他人に感情を動かされる人じゃなくて、友人が怪我したって聞いても笑っているような人なのに。
ふと、その様子に心配になった。
なにか僕にできることがあればなんでもするのに、と、生きてる時と変わらない思いがよぎった。
けれど、もう自分は話しかけもできないし、傍にいることもできないんだなぁ、と。
なんだかやっとのことで、死んだという実感が出てきたような気がする。



その人はその後、その帰る足で僕の部屋に赴いた。
綺麗なその人が入る度、毎度申し訳ない気分になったぼろいアパートの一室。
鍵は渡してあったから、鈍い音をたててドアが開かれる。
掃除はマメにしていたから、綺麗だけれども、そもそも何もない部屋。
火葬場で見たままの無表情で、部屋の中を見回すその人に、僕は首をかしげた。
なにか忘れ物でもあっただろうか。思いつくものはない。
その人は何度も何度も部屋の中を見つめて、そして倒れこむようにして僕のベットの上に寝転がった。
俯きに倒れこんだので、表情は見えない。
けれど倒れこんだままピクリとも動かなくなってしまったので、僕はその枕もとにゆっくりと歩み寄る。
そっとその人の髪を撫でようとしたけれど、指は素通りし、絹の様なその感触も伝わってこなかった。
この人が疲れてたり、落ち込んでいたりしたときは、ただ髪を撫で続けた。
頭を撫でられるのは嫌いじゃなかったのか、この人はそれをただ何も言わずに受け入れるのが常で。
そんなこともできなくなってしまったのか、としみじみと自分の透きとおった手を見つめていると、目の前で、突然彼は頭をかきむしり、強くシーツを握り締めて低く唸り声を立てた。
突然のことに驚き、ただ茫然と見ることしかできない僕をよそに、彼は頭をかきむしった腕を大きく振り上げ、ベットに叩きつける。
荒々しいその様子に、僕は目を瞬いた。
いったいどうしたのだろう。こんなに荒れることは、珍しい。
上手くいかないことがあったのだろうか。
この人はなんでもできるから、そんなこと、そうそうないのに。



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