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短編
−B *end

何度も何度も腕がベットに叩きつけられ、ベットが跳ねる。
しまいには枕がベットから落ち、そして枕の下に隠されていたノートまで床に落ちた。
ばさり、という紙独特の音に気がつき、彼が床に目をやり、落ちたノートに気がつく。
そして、それを不思議そうに手にとるのを見て、僕は心の中で絶叫した。


ぎゃ、ぎゃー!!!
それだけは、見ないでほしいんですが・・・!!!


何を隠そう、それは僕の日記だった。
ちょっとした日常の話から、弟妹の話、そして、彼の、話。

彼を好きだという気持ちを、書き綴った、日記。

恋した瞬間、仲良くなれた嬉しさ、恋人にしてもらえた驚愕、初めてのキス、セックス。
僕の、幸せを書きためた、ノート。
不思議そうにページをめくる、彼。
一ページ目を読むと大きく目を見開いて、食い入るようにページを見つめる。
ぱらり、とページがめくられる音が部屋に響く。
僕はこっぱずかしい日記を読まれるその羞恥心に、その姿を見ていられず目を閉じた。


ページをめくる音が鳴りやみ、静寂が部屋に帰ってくる。
そこでやっと僕は目を開き、恐る恐る彼の方へと視線を向けた。
呆れた表情だろうか、あざ笑われているだろうか、それとも無関心にノートを打ち捨てられるのだろうか。
どれにしたって、恥ずかしい。
頭を抱えながら怖い気持ちで視線を向けた、その先に彼を見て。

やっぱり綺麗だと。そう、思った。

呆然と虚空を見つめて、ピクリとも動かない。
僕が思わず、触れられない手を彼に差し出したその時、彼の口が戦慄いたのを見た。
その動きは、僕の気のせいだろうか。
僕の名前を、象っているように見えて。


そして、ぽろりと零れる、涙。


ほろほろと、次から次へとこぼれていく、初めて見る彼の涙をただただ見つめて。
そして、今度はしっかりと音を伴って、紡がれた彼の言葉。
消えるようなその言葉は、最後まで聞こえることはなかったけれど。
けれど、十分なそれを聞いて。
僕は、僕の人生を、見直すことになった。



「・・・俺も、・・・愛し、て・・・」



なんだ。
僕は、結構愛された人生を、送っていたようだ。



急激に地面が遠ざかる。
体が屋根を突き抜け、どんどん空へと体が吸い込まれていく。
意識が薄れ、なんだか眠いような、どこかに堕ちていくような。
四十九日も待たずに、僕はうっかり成仏しちゃうんだろうか。
そう思ったとき、遠ざかる眼下に、弟妹たちの姿が見えて。
そして、あまりにも遠い距離にいるのに、なぜかその会話がかすかに聞こえて。

ああ、これは、うっかり幸せすぎて成仏しちゃうかも。

そう思って、穏やかな気分で目を閉じた。





もう青年に近い少年は、気慣れない真黒な喪服に身を包み、泣きはらした目で空を見上げ呟いた。
もう煙になってしまった優しい兄に、聞こえればいい。
もう、二度と会えない。
人に差し出してばっかりだった、優しい兄に。
この最後の恨みつらみ、聞いて、死んだことを後悔しろ。


「アンタに楽をさせようと溜めてた金が。まさかアンタの葬式代に消えるなんて、思ってもみなかったよ。バカ兄貴。」


もう絞りきったと思った滴が、また一つ、ぽろりと頬を零れ落ちて行った。




***
最期に幸せなのは、本人ばかり。


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